ダイオキシン問題の現状と法的課題について

1999 年 9 月 11 日 (土)

講演者: 鎌田幸夫 (弁護士)


  1. はじめに
    最初に自己紹介ということなんですけれども、私の廃棄物との関係、というのは大阪弁護士会の公害委員会で何年か前から廃棄物部会に入っておりまして、その関係で昨年 1998 年 11 月にありました「近弁連の人権大会」で、『廃棄物と環境汚染』というシンポをやったんですけれども、その時に近畿圏内の主に処分場と処理施設、焼却施設を現地調査いたしまして、その時関先生なんかにも色々とご協力いただきました。その辺の活動と、事件についてはご存知の方々があると思うのですが、和歌山県の橋本市というところの産業廃棄物、あれは焼却施設なんですが、そこの弁護団をずっとやっていまして、最近公害調停を起こしております。その関係の事件と、能勢の関係は、私の方は公害調停は直接担当していないのですが、これも高瀬先生と一緒にやっているのですけれども、こんどは従業員の労災申請のほうを担当しておる。ということで、事件としては 2 つぐらいしかやっておりません。最初の講演の依頼が、『法廷闘争<ダイオキシン>』。法廷闘争<ダイオキシン>というほどのノウハウというか経験がなかったもので、こういう『ダイオキシン問題の現状と法的課題』という面白くもないタイトルになっております。それで弁護士というのは大体「そもそも」論から始めてしまう癖がありまして、これは本来私よりもずっとダイオキシン問題については詳しい方々がいらっしゃると思うのですけれども、どうしても「ダイオキシンとは何か」とか「今の現状はどうか」とか「今までの歴史はどうやったか」とか、そういう形のレジュメにしてしまいましたので、そのあたりは簡単にさせていただいて、むしろ第三以降の近畿における事例とか私がやっておる時点で感じておるところ、このあたりを中心にお話しさせていただきます。
  2. ダイオキシン類とは
    まことに恐縮ですけれども、「そもそも論」からなんですけれども、この辺は全然専門家でもない弁護士が話をするのはどうかと思うのですが、ダイオキシン類は 75 の異性体があり、これはポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシン (PCDD) といわれてますけれども、それには 1 塩化から 8 塩化までの同族体があって、そして同族体の中に、塩素原子がどこで、水素がどこで塩素に変わっているのかとその数と場所によって 75 の異性体があると言われているのですけれども、この 75 の異性体の中で 1 番毒性が強いといわれておりますのが、2、3、7、8 四塩化ダイオキシンと。レジュメにも出てきておりますが、2、3、7、8というのは水素が塩素に置換しているベンゼン環の位置らしいのですが、四塩化ダイオキシンというのが一番毒性が強い。これから TDI、一日摂取許容量<何ピコグラムpg>とかいうことが出てくるのですが、それは 2、3、7、8 四塩化ダイオキシンに毒性を等価計算したと言われております。
    それで 3 つの仲間というふうに書いておりますが、これは宮田(秀明)先生の本なんかのほうに詳しいのですけれども、ポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシンとポリ塩化ジベンゾフランとコプラナー PCB がある。ポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシンの方は、これはベンゼン環が 2 つある、ということで、それに 2 つの酸素が対面してくっついている。ポリ塩化ジベンゾフランのほうはベンゼン環 2 つなんですけれども、フランというのは酸素原子が一つのフラン環、酸素原子は 1 つである。コプラナー PCB はベンゼン環 2 つなんですけれども酸素がない、そういうふうにいわれておるようであります。
    ここでこれを申し上げておくのはなぜかといいますと、今、学問的には 3 つの種類があるようなんですけれども、行政のほうが厚生省とか環境庁が TDI なんかを言うときには、この(レジュメの)上の PCDD と PCDF のみであって、コプラナー PCB は含めてない、ということのようです。これについてはコプラナー PCB も含めてそういう TDI を設定すべきだという、そういう批判がございます。
  3. ダイオキシンの毒性
    〈ダイオキシンの毒性〉については、急性毒性と慢性毒性がある。急性毒性というのは、セベソ事件なんかもそうなんでしょうけれども、非常に大量のものを一度に吸収した場合の毒性のことなんでしょうが、徐々に遅延性のものらしいのですけれども致死性毒性の他にも、体重減少、胸腺萎縮、これは免疫力の低下とか、脾臓萎縮、肝臓障害、あるいは生殖障害(不妊・子宮内膜症)、あるいはクロルアクネ(塩素系ニキビ)とか、そういうものがある。急性の場合はそういう大きい事故とかいう以外は考えにくいのでもっぱら慢性毒性とが問題となりますが、一生涯に渡ってそれをとり続けてきた場合の毒性が問題になっておりまして、発ガン性、体重減少、免疫力低下、生殖障害、ホルモン撹乱作用等がある、と言われております。
    発ガン性については、これは 1997 年 2 月 1 日に<IARC> ―― 国際ガン研究機関というのでしょうか、そこが一番毒性の強い 2、3、7、8 四塩化ダイオキシンについては、「(グループ 1)人に対して発ガン性あり」というふうに分類しております。
  4. 日本における発生源と人体汚染経路
    それで、〈日本における発生源と人体汚染経路〉ということなんですが、これは資料のほう (1)、(2) ということで見ていただくと、資料 (1) が、これが日本においてどういう形でダイオキシンが発生しておるのかということを、京大の酒井先生の本に出ておるのですけれども、年代がちょっと古いのですが、これを見ますと大体都市ごみ、と、一般廃棄物がずばぬけておって、次に産業廃棄物ということになっている、ということが分かると思います。一般的に、一般廃棄物いっぱい、つまり都市ごみなんですけど、都市ごみの焼却炉からだいたい 80% 出ておって、産業廃棄物の焼却炉から 10% ぐらいが出ておるというふうに、一般の本で言われておるのですが、どうもこの「80%、10%」というのも、実際は特に産業廃棄物の焼却炉なんかは実態の把握が特に規制対象外のやつがございまして、非常に困難でありまして、本当にこの「80%、10%」でいいのか。もっと産廃 ―― 焼却炉ですね ―― 分かっていない部分のほうが多いのではないか、というようなところも言われております。
    資料 (2) が、これが 94 年 3 月段階でですね、それぞれのごみの発生量と焼却量、焼却施設、これをまとめた各国間の比較であります。これを見ると、日本のごみが非常に焼却量が多いと、焼却率が 74%、ずば抜けて多い。焼却施設が他の国に比べて、これも 1864 ですか、ずばぬけて多い。つまり大きな施設がなくて小さい施設がたくさんある、ということがよくお分かりなったと思います。これが今の発生源の、日本におけるダイオキシンの発生源の概要であります。 焼却過程におけるダイオキシンの発生原因ですが、これはよくご存じのとおり「不完全燃焼」。800 度を超える高度で燃やすと発生率が低くなるといわれていますが、それ以下の温度の不完全燃焼で起こる。特にバッジ炉とか、連続炉でない炉ですね、そのときは立ち上げたりしますので、そのときに不完全燃焼が起こって、ここで発生する。あるいは排ガス処理工程で意図しない「デノボ合成」によって、なんか金属を触媒としてダイオキシンが発生してしてしまう、という 2 つの工程があります。
    人体の汚染経路につきましては、これは資料 (3) であげております通り、食事が 98.26% で、大気、水というのは、大気なんかは 1.37% ということで、圧倒的に食事、食事のなかでも魚ですね、魚貝類が多いということがお分かりかと思います。
  5. ダイオキシンの法的規制 ―― 国の不作為
    以上が概要なんですが、第二の「ダイオキシン問題の関連年表と法的規制」ということを書いておるのですが、なんでこんなことをずらずらと書いているのかと言いますと、実をいうと今、高瀬先生なんかと一緒にやっている<能勢のダイオキシン訴訟>で、国の今までのダイオキシン規制 ―― 厚生労働省なんですけれども ―― の規制がどうだったか、と、やはり非常に不充分と言うか、不作為、放置されてきたのではないかという問題意識があって、国の責任を問うておりまして、そのためには歴史的にどのような事件がどのように発生していったのか、ということを年表で調べて、その中でどのような法的規制、あるいは処置が可能だったのかということを考えてみようと思って、この年表にしたわけであります。これは『検証・ダイオキシン汚染』という、川名英之さんの本の中で、非常に網羅的に「ダイオキシン環境ホルモン問題年表」表というのが出ておりまして、そのなかの抜粋をしておるわけであります。それで、一番取っ掛かりという意味で、やはり「ベトナム戦争で米軍が『枯葉剤』を散布した」と、この「枯葉剤事件」だろう、と。これは、2-4-5T という除草剤の副生物、当時はどうしても除草剤を作るにはそういう副産物ができたようなんですけれども、それにその副産物として 2、3、7、8 シ塩化ダイオキシン、これは一番毒性の強いものが一緒に出来てしまっておったようで、要は「枯葉剤」を、農薬を蒔いたのですけれども、その副産物である 2、3、7、8 シ塩化ダイオキシンも含まれていた。その量というのは、枯葉剤の量が、この宮田先生の本を読みますと「67,015kl」、それに含まれる四塩化ダイオキシンの量が「166kg」というのですから、すごい!途方もないダイオキシンがばらまかれてるだけなのです。それで 69 年頃から南ベトナムで、特に出生異常とか奇形児が出生するとかいろんな報告がありまして、結局 71 年頃にその作戦を中止したようです。これはご存じのとおり「ベトちゃんドクちゃん」というような奇形児を生んだり、あるいはアメリカのベトナム帰還兵が枯葉剤を製造した会社を相手に、そのことによってガン・クロルアクネ・性欲減退・神経症などになったということで訴訟を起こして、最終的には和解したようなんですけれども、そういうものに発展していった。これが世界的に大きな、ダイオキシンの毒性に関する知見として知られる事件だろうと思います。それとイタリアの「セベソ事件」、これも 76 年に起こっているのですが、スイス系のイタリアにあるイクメサ工場のプラントが暴走しまして、それも 2、3、7、8 シ塩化ダイオキシンが周辺を汚染して、小動物とか家畜が死んだり、あるいは人間にクロルアクネ(塩素系ニキビ)とか自然流産とか肝機能低下の割合が上がった、という事件であります。詳しい事は、色々な本に紹介されています。このような大きな事件がありました。このベトナム戦争とかイタリアのセベソ事件以前にも、宮田先生なんかの本を読みますと、これ以前にニワトリの雛に水腫ができて、それで死亡した、と。それはなぜかというのをいろいろ調べていったら、その原因がやっぱり油脂を混ぜた飼料に、除草剤がついておって、その除草剤の 2、3、7、8 シ塩化ダイオキシンが原因だった、というのが、これももっと以前に分かっておるのであります。
    このような色々な事件があったのですけれども、1977 年にここにオランダの科学者のオリエさんという人が、都市ごみ焼却場の飛灰、ガスから始めてダイオキシンを検出しました。このあいだ高知大学の立川良先生という日本でダイオキシンの草分け的な先生なんですけれども、その先生に弁護団でお話しをうかがう機会があったのですが、その先生がこの「都市ごみの焼却場の飛灰からダイオキシンが検出されたというのを聞いて、非常にショックを受けた」ということをおっしゃいました。というのは、この「枯葉剤」とか、「イタリアセベソ事件」とかは、これは事件としてあるわけなんですけれども、それが都市ごみ焼却場という本当に身近にあるものからこういうダイオキシンが検出された、これはえらいことだということで、非常なショックを受けた、という事をおっしゃってました。日本でもその後、カナダの研究者が京都市の焼却場の飛灰からこの PCDD とか、あるいは PCDF を検出した。松山市のごみ焼却場の洗浄水から PCDF ―― ジベゾンフラン ―― を検出した、というようなことがありまして、1983 年には米大気汚染学会の A テイラーさんというような報告がありまして、そのなかで「ゴミ焼却場で生成されたダイオキシン類を確実に熱分解させるためには 1200 度で 2 〜 3 秒の滞留時間が必要だが、ゴミ自体が不均一性のためこのような条件でゴミ焼却炉の運転を連続的に維持するのは不可能」というこういう事を発表しております。さらに 83 年には、今言いました立川先生とか脇本先生の研究グループが「西日本の 9 ヵ所の一般ごみ焼却炉の飛灰と残灰からダイオキシン類を検出」している。このとき立川先生は、「燃焼の度を 900 度以上にしないといけない。このまま放置することを許されない。」ということをおっしゃったそうであります。ここまで来ますと、「枯れ葉剤事件」なんかで、ダイオキシンの人間に対する非常な毒性のある知見があった、と「セベソ事件」もそうだったと。そういうものが実際都市ごみから出るのだ、そして燃焼、高温でなければダイオキシンの発生を止めれないというところが、この辺で大分、知見として分かってきたはずなんであります。ところが次の 1984 年 5 月 23 日の、厚生省が召集しました「廃棄物処理にかかるダイオキシン専門者会議」というものがありまして、これは東京都の一般焼却場の労働者なんかが健康不安を訴えまして、本当に日本の焼却施設は大丈夫なんかということで、いろんな日本の当時の専門家--これは立川先生も入っておられるようですが--を集めまして、検討委員会が開かれた。これが非常に今から言うと、とおかしいのですけれども--我々の弁護団でも議論しているのですけれども、大きな問題があった会議でした。結論的には「ごみ焼却場におけるダイオキシン評価指針」という言葉を使っているのですけれども、暫定的に 100 ピコに設定した。今ご存じのとおり、厚生省が 10 ピコだったのが 4 ピコにはなっていますので、100 ピコというのはかなり大きな数字です。これも評価指針なので、これは TDI ではないというのですが、その辺の言葉遣いが官僚的なのですけれども、暫定的な評価指針であって、今後いろんな情報を集めて議論の必要があるよ、というそういうぐらいの意味あいなんですけれども、100 ピコというものが設定されました。なぜそれが設定されたかについて、当時の報告書があるのですけれども、読んでよく分からないところがたくさんあるのですが、どうもその前年か前前年ぐらいに ETA というアメリカの環境保護庁の実験かなんかで、ラットにどの程度のものを与えたら影響が出るのかということで、それが 1 ナノという数字が出たと。1ng はご存じのとおり 1000pg ですので安全率を 10 で掛けたらしいのです、で 100pgと、そうなったようです。
    それでこの会議がごみ焼却場の労働者のどの程度のダイオキシンを暴露するかというのを計算しておりまして、フライアッシュ中にいくらのダイオキシンがあるのかということを前提にして、労働時間の中で、8時間の中でどの程度吸収するのか。あるいは労働時間外で一般住民としてどの程度吸収するのか。炉内作業を年間5回やるとしてどの程度吸収するするのかというような、大体3つの数字を足し算しまして、そうすると、足し算すると0.043ngである。43pgになるのですか、0.043ng、だから0.1ng以下であるということで、これは安全だ、というふうな答申になりまして、きわめて大きな安全性を包含しているものといえる、というような結論になってしまったわけです。
    評価指針というものが安全値を定めたものではないのですけれども、こういうものが一回出てしまうと、もう「これ以下なら安全だ」というような行政の対応になりまして、その後も宮田先生が色々な調査研究、84年ですね、焼却炉から飛灰とか工程の調査を発表したり、立川先生の研究があったり、ドイツでTDIを10pgにしたり、排出基準をこのTDIから計算して、計算したかどうか分からないけれども、排出基準を0.1ngにしたり、というようなところで、ずっと規制は続いていっているのですけれども、その間日本の行政は何もしてこなかった。86年には環境庁・厚生省がこれも「ごみ焼却場、最終処分場から周辺環境へのダイオキシン排出状況・検出状況を明らかにする」、ということで、実態調査をやっているのですが、これも今の暫定指針である100pg以下であるということで処置はされなかった。あと、デンマーク、スウェーデンとか、WHO、カナダなんかがどんどんTDIを増やしていくのですが、その間も何もされなかった、というところです。 最終的に厚生省も、最終的にといいますかその後も90年に土佐清水市なんかで、あるいは神奈川県津久井郡広域行政衛生組合の部分処分場(ごみ焼却処分場?)の飛灰から高濃度のダイオキシンがでてくる、というようなこともあって、厚生省もやっと重い腰を上げて90年の12月26日にいわゆる旧ガイドラインといううものを設置したのです。このときの旧ガイドラインの位置づけというのは、結局ごみ焼却場から出るダイオキシンというのは健康に影響が出るというような現状ではない。ということで、もちろんTDIも定められませんでしたし、ゴミ総量を1/10、ダイオキシンの発生量を1/10に減らそうということで、いろいろな対策、方策をを示したようなんですけれども、TDIを定めなかったということで実効性がないままであった、ということであります。94年にはアメリカのEPAがTDIとして0.01というものを提案した、ということになっています。
    このようにずっと日本のTDIの設定が遅れていくのですけれども、ようやく96年になって厚生省がTDIを10pgとした、ということです。これ(レジュメ 2page)を見ますとドイツなんかに比べるたら10年以上遅れている。特に84年の厚生省の専門家会議からいうと、12年もTDIの1日摂取許容の設定がなくって、排出規制もされなかった、ということであります。この10pgというのはよく言われますようにラットの実験ですね、1ngを今度は100で割ったやつで、安全率というのは10で割るのではなくて100で割るのが普通らしいのですけれども、今度は100で割って10pgにした、と。但しこれもコプラーナPCBまで出ないということで、不十分だという批判がありました。
    その後は大体皆さんご存じのとおりなんですけれども、次のページのところで環境庁は「環境リスク評価指針」、これはTDIではないようなんですけれども、積極的に維持するのが望ましいという、そういう意味合いらしいのですが、5pgに設定した。これは赤毛猿の実験を採用したようであります。赤毛猿というのは人に一番近いといわれていますけれども、それを採用した。そういうなかでTDIを設定した翌年97年に厚生省が新ガイドラインを設定した。この新ガイドラインというものが、新聞なんかでもご存じのとおり緊急対策として、緊急対策をとる排出規制として80ng というものを定めてあるわけであります。80ngというものの計算根拠が10pgから計算している。人が一般の人が食事と大気からとるダイオキシンの量、そして周辺住民が特に焼却施設から出る、とるダイオキシンの、大気中からとるダイオキシンの量が、ではいくらなら10pg以内に収まるか、というそういう計算をしまして80ngという数字になっているようであります。それが緊急対策として80ngになりまして、恒久対策として、新設(2002年以降稼動)については0.1ngを目指そうということになりました。それ以降は環境庁がダイオキシンを有害大気汚染物質に指定しまして、厚生省も焼却場の維持管理基準の設定をして、大気汚染防止法、廃棄物処理法に基づく政省令の改正がなされた、ということであります。これで資料の・が大気汚染防止法の排出規制です。これは新聞なんかでよく紹介されていますように、新設が基準に、大きさによるのですけれども0.1〜5ng、既設炉が1〜10ngということになっております。但し平成4年11月30日までが経過的に80mgといっていたのが本当であります。
    今年になりまして政府のほうが、ダイオキシン対策基本指針ですか、という閣議決定をして、4年以内に排出量を平成9年度比で9割削減しよう、TDIを見直そう、。厚生省が10pgといっていたのですが、WHOが98年に1〜4pgという形で見直したので、環境庁と厚生省の合同会議で本当は1〜4pgのはずだったのですが、なぜか4pgになってしまった、ということであります。
    以上で見てきますと、「我が国のダイオキシンの法的規制の問題点」というのはやはり、大きな「枯れ葉剤事件」とか「セベソ事件」とかあるいはオランダなんかでの色々な知見がありながら、やはりそうものを充分生かさずに、TDIとかあるいは排出基準の設定が非常に立ち遅れたのではないか。それは薬害エイズなんかと同じような構造があるのではないか、というふうに思っております。
    「現状の法規制の不十分さ」ということで、“TDI”が4pgなんですけれども、これは充分と見るかどうかというのは、4pgというものが果たしてどうなのかという問題がもちろんあるとおもいます。アメリカなんかはこれは0.01、EPAなんかは0.01としている。これがなぜこんな差が出るかというと、これも宮田先生の本に詳しいのですけれども、ダイオキシンを発癌性があるのか、発癌性があるということでイニシエーターなのか、発癌性がなくってそれを増進すると-プロモータなのかという見方があるようで、発癌性があると-イニシエータだという理屈になると、それは一つの細胞の遺伝子の傷でもがんになるわけですから、閾値といいますか、安全値がない。安全値というものがないので、そうするとどうするかということになると、100万人に一人起こるぐらいの割合にしようやないかということで、非常に低い0.01pgになっている。発癌性がない、それはあくまでもプロモーターだ、と、増強作用があるだけだということになると、一定量以上までは無害で一定量以上は有害だという、そういう捉え方をするようなんですけれど、それで動物実験なんかで影響が出る値というのを決めていって、4pgとか10pgとかいうものを決めた、とこういうことなのです。そもそもTDI考え方にも大きな差があるようであります。
    あとは”排出規制”の問題についても現行は平成14年まで猶予期間をもうけたり、基準遵守の監視体制など非常に不充分である。特にいつ測るのか誰が測るのか、あるいはそれを虚偽の申告をした場合の罰則はあるのかというと、罰則もないようで、この基準遵守の監視体制は非常に不十分ではないか、というふうに思っております。
    それと今のは大気の話なんですけれども、土壌の話についても、これも環境庁の検討委員会の暫定基準というのがご存じのとおり1000pgというのをいつでしたか、1998年定めておるのですけれども、1000pgというのもあの報告書をよく読むと、住宅地についてその数字が出ているのですけれども、別にそれで安全だとか、1000pg以下なら安全で1000pg以上危ないとかそんな事は一つもいっていないわけで、ところが1000pgというものが出てしまうと、実際あとで私なんかも橋本の事件をやっていますと、結局1000pgという数字が出てしまうとそれ以下はなにもしなくていいというような行政の捉え方になってしまって、数字というものは本当に考えようによっては安全基準という、そういう見方にされてしまって、一人歩きしてしまうという部分があるなあという気がしています。
  6. 環境リスクの評価・管理のあり方
    あと、「人の健康に関する環境リスクの評価・管理のあり方」ということを書いているのですけれども、これはここで特に申し上げる事ではないのですけれども、今度大阪弁護士会の30周年で特に「環境リスクをどう考えるか」というような公害委員会の30周年で、そういうパネルディスカッションをやったらどうかという中でこんな議論をしているということであります。特にリスクの捉え方、まず有害性をどう評価するのか、評価の仕方、それと暴露、それに暴露するのをどう評価するか、それを評価した上で環境リスクを、では普通の人とか乳児とかあるいは女性とか妊婦とかどういう形で考えるのか、とかいろんな評価の仕方がある。評価した上で、どう管理するのか。リスクというものはあくまでもゼロでないといかんという「ゼロリスク論」を目指すのか、「リスクには一定あっても仕方がない、一定以下に押さえよう」という考え方でいくのか、あるいはリスクとベネフィットを比較して許容できる、こういうリスクだったらこの程度許容できるだろうという考え方でいくのか、というような色々な考え方があるようであります。
    ダイオキシンについて、他の化学物質について、どういうリスクの評価、あるいは考え方をとったらいいのかというのが非常に難しいところだろうと思います。少なくともダイオキシンについては、やはり「ゼロリスク論」というか、少なくともゼロに近づけていくのが必要な姿勢ではないかというふうに考えております。次に「リスクコミュニケーション」ということですが、これは事件をやっていてよく感じるのですけれども、今のリスクの在り方というのは、リスクの説明といいますか、それは住民と行政と業者がいて、住民と行政の間には、あるいは能勢もそうなんでしょうけれども ―― 一定の不審感がある。そもそも行政のほうは別に住民の意見を聞くとか、住民の意見を聞いて物事を進めようという姿勢はないわけで、むしろ行政は行政で勝手に調査して、「これは基準以下だから安全宣言ですよ」という安全宣言をぼんと出してしまう。だから市民のほうはただ単にそれを「安全だ」といわれても、要は本当にそうなのか、なんでそうなのかというところのコミュニケーションがないもので、要はただ単に押し付けられているだけだということになってしまう。例えば能瀬のあの問題をどう処理していくか、とか、あるいは橋本にある産廃ダイオキシンをどうするか、そういう話になってこないという、そういう問題点を言っておられます。それできちっと行政と住民とが信頼関係をつくって、お互いの情報を双方に共有していくと、そういう様な土壌が全然日本にはないなあ、というふうに考えております。
  7. 事例紹介
    次に事例紹介なんですけれども、これは資料のなかに近弁連の、これは本当に去年のもので申し訳ないのですけれども、能瀬とか宍粟郡とか和歌山県の橋本の事例があります。
    能瀬の事例はよくご存じだろうと思うのですが、能瀬は今、公害調停をやっているようで、私は公害調停弁護団ではないのですけれども、856人ぐらいの申し立て人で平成10年の9月に起こしておって、求めているのは情報開示、情報公開ですね。それと能瀬の場合は都市ごみですので、産廃と違って自分達の出すごみなので、ごみ行政の在り方を考えるということで、分別収集とかリサイクルをどうするかとか住民参加のごみ行政検討委員会を作れとか、そういう事を求めている。そして健康調査とか水質汚染とかその他色々な環境調査、それと保障を求めて今調停中であります。今公害調停がどうなっているのか本当の現状ところは私にも充分掴んでないのですけれども、結局ダイオキシンで汚染された土壌をどうするのかということで、今色々問題が出てきておるのであります。この間その公害調停弁護団の人にもらった図なんかでは、色々、放射線状に調査をしまして、この分については土壌を ―― これは色を色々塗ってありますけれども ―― 土壌を除去するとか、色々対策を今検討されているようであります(追記 1)。
    それともう一つ能瀬には労災申請の事件がございまして、1枚もので「能瀬ダイオキシン労災申請概要」という書類を出しています。名前を伏せていますけれども、これは別に意味はないので、上の方は竹岡さんというかたで、下は畑中さんというかたなんですけれども、竹岡さんは大腸癌、直腸癌、畑中さんが色素沈着とクロルアクネと書いてますけれども、クロルアクネという正式診断がまだ出ているわけではありません。この人達は、丸川工業という施設組合の孫請けで働いておって、主としてクレーン操作も含めてメーターの点検とかあるいは一番すごいと思ったのは、冷却塔ですね。冷却塔の中で、何万ピコというダイオキシンが検出された冷却塔のヘドロを手袋だけで除去する仕事をされておりました。それで、血中のダイオキシンがこの通り通常の人は20〜30pgらしいのですけれども、大体それの10倍、20倍ぐらいか、ということであります。特に血中ダイオキシンの組成がこの灰の、焼却灰なんかでは焼却灰の成分分析をしますと、ジベンゾ・パラ・ジオキシンとジベンゾフランの割合ですね、焼却灰の割合と同じような割合が、この血中濃度からもでている。ということで、この焼却施設からの影響だということがかなり明確なです。これの問題点というのは結局まさに労災ですので、因果関係、いわゆる癌との因果関係はどうなのか、あるいはクロルアクネですけれども、畑中さんのほうはクロルアクネ(塩素系ニキビ)だという診断が出ると比較的因果関係は、はっきりするだろうということです。現在その辺りをお医者さんの意見書のつめを今やっている段階であります。今後の課題なんですけれども、安全配慮義務違反を含めて民事訴訟、損害賠償を起こそう、ということを考えているということであります(追記 2)。
    次に橋本市の問題というのはだいたいこの資料ですね、先ほど資料・のところをずっと読んでいただいたら解るのですが、これは産業廃棄物の焼却施設でありまして、この産業廃棄物の日本工業所というのですけれども、その業者が処理業の許可がないのに、勝手に野焼きずっと繰り返しておって、それで県の担当者がそれを黙認してまして--後でそれがワイロを貰っているというのが分かったのですけれども--黙認していた。そしてその後、法の網をかけるという理由で処理業の許可を出しまして、それで燃やし始めたのです。だけれども住民達の健康被害が発生しました。それで住民達が県に色々運動しまして、最終的にはこの焼却施設の使用を止めさせました。無断で野積みにしていた産業廃棄物、これも一応全部撤去させております。今一番問題になっておりますのは、それ以前に産業廃棄を持ち込みまして、それをその谷に埋めてしまっているのですね。あるいは焼却灰とか色々な燃え殻とかを全部埋めてしまっている。その埋っている産業廃棄物をどうするのかという問題が、一番大きな問題であります。特に業者はもう事実上今つぶれておりますので、今私たちがやっているのは県に対して、「県のいわゆる責任である」ということで公害調停を起こしまして、「埋っている産業廃棄物の撤去と後の環境調査をやれ」ということを今やっているわけであります(追記 3)。
  8. 住民運動で必要なものは何か
    それで一応近畿における事例紹介ということで私の関与している分だけですけれどもご紹介しましたが、結局これから住民が一体どういう対応をするのかという話になるのですけれども、一つはやはりこういう事件をやっていて感じますのは行政の対応の不十分さというところだと思います。特に産業廃棄物は基本的に、結局県の廃棄物処理法上のいわゆる勧告、改善命令とか措置命令、そういう権限をほとんどそれを行使しない。行使せずに、行政指導とかそういうもので済ませてしまう。あるいは橋本の事例なんかは、許可を得ていないのにそれを黙認しまして、ワイロを受け取って黙認しておったという、非常に業者と県の癒着の姿勢がまず一つあります。そして、能瀬の問題なんかは、これは産廃ではなくて一般廃棄物ですので施設組合の問題だろうと思うのですけれども、この施設組合も新聞等で問題が指摘されましたように、情報隠しをずっとやっていた。本来80ナノ以上ずっと前に出ていたのですけれども、それを厚生省に報告していない。あるいはもうちょっと連続運転--今までは連続運転をしていなかったのですが--連続運転をしてもう一回測って、それでも80ナノ超えたのですけれども、もう一回測ってそれで出すとか、そういう情報隠しをずっとやってきたという経過があります。そうすると、行政の対応が非常に怠慢であるということで、住民が地域の環境を守っていくしかない、ということを強く感じております。特に環境監視運動、活動というように書いておりますけれども、私のやっている橋本の事例なんかは住民が自分達で環境監視センターの中地さんに、水質の検査を定期的に頼みまして、ずっとそれ測っている。重金属が出ていないかとかということをずっと測っている。あるいはダイオキシンについても、自分達が宮田先生にこの調査を依頼するとか、、、。ということで、行政だけに任せずにずっと自分達が地道に監視していく。行政の数字もあてにせずに、自分達がクロスチェックしていく。そういうような姿勢が非常に重要ではないかというふうに感じております。
    それと、そういういろんな住民が活動をやっていく上で、やはりどうしても必要なのが、情報収集ということになるのですけれども、情報公開条例が非常に今使いやすい、というふうに思っております。特に産業廃棄物の設置許可申請書ですね、これについてはこの津地裁の平成9年6月19日の判決があるのですけれども、企業秘密ノウハウで「非開示だ」という主張を県がしたのですが、これについては産廃処理業というのは人の生命・身体・健康に影響を与えるということで公開を命じた。あるいは行政指導文書、行政文書についても、これもこれを公開すれば業者との間の信頼関係が崩れるということで今まで非公開にしておったのですが、三重県の情報公開審査会はそれを否定しまして、やはりこれだけ住民とのトラブルが起きているので、行政と業者との信頼関係ももちろん大事だけれども、それにも増して行政と住民との信頼関係が今重要なんだ。そのためにはこういうものを公開すべきだということで、公開を命じております。そういう意味で情報公開条例というのは、環境問題について非常に有用な役割を果たしてきたのではないかというふうに思っております。
    あと、「行政交渉」とか「公害調停」とかいうものを書いてますけれども、大体こういう事件が起こりますとまず住民達は県とか、あるいは市なんかに要請に行く。結局、例えば「許可を出すな」とか、あるいは「許可を取り消せ」とか「ちゃんと指導しなさい」とか、あるいは「あれを調査しろ」とか、こういう形の上では陳情に行くわけです。実際、廃掃法上の、廃棄物処理法上のいろんな行政権限というのは発動するかどうかは、いわば行政の問題ですので、行政が発動するかどうか分からんということになっていくわけなんですけれども、結局「ちゃんとした調査しろ」「何をしろ」、ということを住民が一生懸命求めて、あるいは住民が調査をしたものをもって県に求めていけば、やはり行政もほっておけなくて、一定不十分ながら前進していく、ということではないかというふうに思っております。
    公害調停も今、能瀬と橋本でやってるのですけれども、これもなかなか公害紛争審査会で公害調停をやりましても、なかなか議論がかみあわないのですね。県のほうは一応出てくるのですけれども、同席はしない。奈良県なんかは県がそもそもそういう県自体に当事者適格がない。要するに行政権限の発動を求めるものであるとして、県は相手側には「なりえないんだ」ということで出頭もしなかったようなんです。能瀬とか橋本はそうではないのですが、これも橋本なんかはそもそも同席しない。結局、「県にはそのような責任はない」とか「県はやることはやっている」という形になってしまって、なかなか互いがどこに問題があって、じゃああそこにあるダイオキシンあるいは廃棄物をどうするかということについて、お互いが論議をする、議論をする。それを<リスクコミュニケーション>という言葉でいうのかどうか分かりませんけれども、そういう場がもてないのです。県のほうは県のほうで住民とは別に、そういう公害調停とは別に、だいたい検討委員会というものを自分のところで作りまして、検討委員会でそれも学者の先生をいれた検討委員会を作って、そこで一定の方向性を出してしまって、「ここはこうですから、こうですよ、と。もう大丈夫ですよ。こういう基準を作りました。これでやります」と、これで後に住民にポンと言うだけなのです。そうなると全然住民のほうも自分達の意見を反映してもらえない。それは、例えば住民のほうが「ここ、ここまで調査してくれ」「ここをこういう調査をしてくれ」と。
    例えば
    • 広い汚染された土壌のどこを調査するのか
    • どういう範囲でどういう形で調査するのか
    • メッシュみたいな形で調査するのか
    • 何メートル掘るのか
    • 検査をどこまで、どの程度やるのか
    とか、
    それについてもなかなか住民のほうと行政が一緒に話あってやるということにはならない。行政が「必要な部分だけをやる」と、こうなりますので、当然対策のほうも行政は「これでいいと思っている」と、こうなってしまう。今橋本なんかでは行政が言っているのは「10000ピコを超えなければ、それは撤去しない」。「10000ピコを超えた場合は持ち出すのだ」と、こういう事を、方向性をもっているようであります。これは今言いました環境庁の基準でさえ1000ピコで、なんらかの対応が必要だと言っているので、そういう形になってきてしまっているわけであります。結局公害調停とか行政交渉もそうなんですけれども、それだけでは全く解決しない。やっぱり、あくまで公害調停は一つの住民の意見をいう場なんですけれども、それだけでは全然廃棄物とかダイオキシンについて解決しないので、それを一つのテコとしてどうやって運動を作っていくのか、それも和歌山県内の運動ぐらい、あるいは橋本ぐらいの運動だけではどのようにもならなくて、全国的な大きな運動がないとなかなか県とかあるいは厚生省、環境庁を動かしていくことはできないな、という気がしております。
    あと、裁判闘争ということで書いておりますが、これはもう今日来ておられる先生方も充分ご承知と思うので簡単にさせていただきますけれども、事業者に対して操業差し止めの仮処分、これを起こすのですが、人格権に基づいてダイオキシンが発生すると生命・身体に危険を及ぼすんだということで操業差し止めの仮処分をしたところ、甲府地裁が平成10年2月25日にこの仮処分を認めている。その理由は、ダイオキシンを抑制する十分な装置があるという具体的な主張立証を業者側はしなかったということをあげています。あるいは仙台の決定もそうなんですけれども、仙台地裁の決定も同じく、業者のほうが塩ビなんかについては分別するんだとか主張したんですが、結局裁判所の方は、「分別するとか分別すると言っているけれども、具体的な分別手段や人員計画ということを何ら具体的な資料・根拠を示していない。だから当然そういうものは混じるんだ。」ということで、いわゆるダイオキシン防止対策は不十分であるということで、これも仮処分決定で認められている、ということであります。基本的には裁判所の流れはそういうことで、焼却設備について業者の方がは具体的にダイオキシンがでないのだというきちっとした主張・立証ができなければ仮処分決定は出るという流れのようであります。
    次に問題となるはその原状回復ということで、すでにそういう汚染された土壌があるとか、あるいは汚染された廃棄物がある場合にどうやって撤去させるのかというのが非常に頭の痛い問題であります。豊島の場合は公害協定がありまして、そのなかで産業廃棄物は持ち出すという合意があったので、高松地裁で原状回復の判決が出ているのですけれども、それがない場合どうするか。汚染させた土壌について、行政はこれは基準がないから特にやらない、「撤去を命じません」と言っている場合に、住民のほうが「それはおかしい。撤去しろ。」ということでどういう形で、どういう理屈で裁判を起こすのかというような問題があると思います。結局、人格権とかいうことで起こしていかないと仕方がないのかなと思うのですけれども、それにしても業者が無資力の場合、業者がづぶれていたらの場合に結局行政に責任を追及すると、今橋本でやっているように県に撤去せよということなんですけれども、その根拠をどうするのかという問題があるかと思います。また、こういう環境事件に共通するのですけれども損害賠償をやる場合に、公害事件なんかはもう被害が全部発生して比較的明確なのですが、被害が顕在化していないという場合、特にダイオキシンの血中濃度が通常時の20倍高いという場合に、その損害のどういう構成するのかという新しい問題があるということであります。
    あと、行政に対してはその許可、廃棄物処分場の設置許可の取り消し訴訟とか住民訴訟とか損害賠償が問題になろうかと思います。
    原告適格については、前橋地裁のほうは産業廃棄物の処分場だと思うのですけれども、設置許可というのはあくまでも業者に対して出しているので、住民はその取り消しを求める利益がないということで否定しており、これが一般的だろうと思うのです。もっとも大分地裁の平成10年の2月は地盤の地滑りとか、あるいは設備が例えば落下するとか、あるいは流出事故があるとか、そういうことで直接被害を受ける住民に限ってですけれども、原告適格を肯定しており、原告適格の枠が広がっているのかなあ、という気がします。
    住民訴訟については能勢と宍粟郡で、小田弁護士とかが三井造船を相手に炉が欠陥炉だった、という理由で訴訟をやっているというところであります。
    損害賠償請求というふうに書いていますけれども、これは例えば県が全然何もしなかったという場合に県の責任を追及できるのか、あるいは能勢なんかで厚生省とか労働省が充分なTDIの設定とかあるいは排出規制をしなかった、そんなために損害を被ったということで国家賠償ができるのかというそういう問題であります。結局水俣とか今までいろいろな不作為の国家賠償を求めた事件があるようですけれども、要は生命・身体への危険が非常に切迫していたと、そしてそれにそれを行政としては十分予見できた、と。行政としても具体的にいろんな規則の制定とか行政指導でその結果を回避は可能だったという理屈で(?はないか。特にその時代にどこまでの知見があったのかというのが大きなポイントになってくるだろういうように思っていますけれども。
  9. 最後に
    大体私がお話しできるのはその程度なんですけれども、やっぱり今から起こす国家賠償にしろ何にしろ、裁判というのは先生方もお感じだと思うのですけれども、非常に後追いですよね。特に裁判や公害調停とか、被害が起きてから、例えば廃棄物が捨てられてから原状を回復するいうのは非常に大変な話で、やはりそのような被害・環境汚染を起こせないという住民の不断の監視運動とか努力とかというものが非常に重要だ。特にその中で、情報公開条例とか、あるいは今言われているような環境保全条例とかそういうようないろんな、住民にもっと色々武器があったらなあという気がしております。それとあともっと大きなTDIとか、規制の問題についてはもっともっと住民と行政と業界を含めて環境リスクをどうしていくのかという様な、「リスクコミニケーション」を行い、そのなかで新しい規制の在り方を考えていくというのが必要になっていくのではないかというふうに感じております。非常に中途半端で申しわけありません。
(追記 1: 能勢の公害調停のその後の経過について)
 
「能勢の公害調停は、平成12年7月14日、(1) 施設・周辺高濃度ダイオキシン汚染物の処理、安全化対策を平成19年12月20日までに完了する、(2) 30 カ所の追加の環境調査、20年間の継続的環境調査、健康調査を行う、(3)「対策協議会」で今後の対策を公開協議する、(4) ゴミ減量50パーセントの町づくりを目指す、(5) 三井造船の7億5000万円の費用負担などを柱とする調停が成立しています。現在は、保管中の「高濃度ダイオキシン汚染物」の処理を巡り現地で高濃度溶融方法(ジオメルト工法)を行うことの是非が焦点となっています。」
 
(追記 2: 能勢ダイオキシン労災申請、国家賠償訴訟について)
 
「平成12年3月15日、淀川労働基準監督署は、畑中、竹岡さんの労災申請について、不支給決定をしました。その理由としては、両名が焼却施設で高濃度のダイオキシン類に暴露したことは認めながらも、畑中さんについては、塩素ざ創(クロルアクネ)ではなく、老人性黒色面皰であること、竹岡さんについては、現在の医学的知見では、ダイオキシン類と大腸ガン、直腸ガンとの因果関係は認められていないことなどとしています。
 
両名は、平成12年5月10日、大阪労働者災害補償保険審査官に審査請求を行い、現在審査中です」
 
「平成11年12月24日、原告を竹岡ら6名の下請労働者らは、本件焼却施設で稼動していたことにより高濃度のダイオキシンに暴露したとして、国、大阪府、施設組合、三井造船、三造環境エンジニアリング、丸川工業を相手取って総額5億3000万円の損害賠償請求を大阪地裁に提訴し、現在継続中です。」
 
(追記 3: 橋本市産業廃棄物不法投棄事件について)
 
「平成12年2月21日、件の再調査で焼却炉周辺から最高10万ピコの高濃度のダイオキシンが検出され、県が緊急対策を発表し、全国で産業廃棄物ではじめて、焼却炉撤去、高濃度ダイオキシン除去命令が出された。なお、現在、高濃度ダイオキシン処理方法について、ジオメルト工法による現地処理の当否が問題となっています。また、県の木村知事が、平成12年10月28日、現地を視察し、『今後の恒久的対策は住民と協議していきたい』と述べています。」

質疑応答

<質問者A>
 
差し止めの仮処分というのは結構言われているのですか?それかほとんどやっていないのか?
 
<鎌田先生>
 
ごみ弁連ニュースを送ってきているのですけれども。(中略)産業廃棄物処分場の区分のなかの安定型の処分場というものがありますよね。ごみの安定5品目を、素ほりで何も処置をせずにごみを捨てる。それで仙台地裁で「丸森町事件」ですか、これが一番最初だったんですけれども、要は安定5品目だけを捨てるといっても、結局他の有害物質が混じってくる。それが地下水を汚染する危険性があるということで、操作差し止めの仮処分が認められているのですけれども、そういう処分場の例を見ていたら、かなり今まで決定が出ているわけですし、現在もたくさんの事案があるようです。
 
<質問者A>
 
差し止めが認められるという例があるというわけですね。
 
<鎌田先生>
 
だから地下水汚染、―― 農業用水というものはどうも駄目みたいなんですけれども ―― 人の生命身体に関わるんだということをいえば、そこが立証できれば、地下水に影響がするとか、飲み水に影響がするとか言えば、処分場のほうはいけます。焼却施設のほうは、ダイオキシンというのは一旦出てしまうとそれについて除去する方法というのはないので、発散防止設備自体がきちっと”整えられているのだ”と主張しない限り、差止めを認めようと。ただこのごみ弁連のニュースなんか見ていたら、勝った事例は大体業者がいいかげんな業者で、ずさんな焼却施設を作っていたからではないか、とか、もっとちゃんとした業者が出てきたらどないするんだ、という議論がされていますが。
 
<質問者B>
 
保証金はどのくらい?
 
<鎌田先生>
 
それは私はやっていないから分かりません。
 
梶山正三さんというのがごみ弁連の会長をやっているので、この人は本当にそういう意味では、詳しいですよね。科学的な問題も含めて。
 
<質問者C>
 
労災認定のほうはどこまで出ているのでしょうか?
 
<鎌田先生>
 
要は労災申請書を出しまして、出して、今、お医者さんの意見書が出たのですね。癌の、直腸癌の関係なんですね。この方の家庭上とかそういう因子はなかったか。で、結局ここで働いたことが元々あった因子を増強させたという、過労死と同じようなことで意見書を書いていただいて、そこで今留まっています。あと、クロルアクネなのかどうかについては、いま九州の先生でカネミ油症の関係の先生を今当たっている。その診断をしてもらっている、というところではないでしょうか。
 
このあいだ、能勢の関係では高瀬先生といっしょに証拠保全に行きました。能勢の炉がつぶされるというので、損害賠償を将来やってほしい、ということです。
 
<質問者(複)>
 
防塵?
 
<鎌田先生>
 
防塵。やっぱり見ると労働環境としても大変ですよね。埃とか、今これぐらい溜まっているのですね、埃とか焼却灰とかが。今いった一番屋上に冷水棟がありまして、そこから水に凝縮されたダイオキシンが周辺に飛び散っている、その冷水棟も証拠材保全の対象になります。で、僕と裁判官と、職員3人と入ってビデオを撮ったんですね。そしたらまたヘドロが溜まっているのです。
 
<質問者(複)>
 
そのヘドロそのものは証拠ですか?ひょっとしたら。
 
<鎌田先生>
 
それは保管したかったのですけれども、裁判所から断られました。水俣なんかはそれでも昔やったようですね。工業汚水を持って帰って。
 
<質問者(複)>
 
持って帰ることには意味がないわけですね。ヘドロ、、、。
 
<鎌田先生>
 
それも言ったんですけれども、弁護団長もそこまでは必要ないだろう、ということで、そのままになっております。
 
<質問者(複)>
 
厚生省からは結構検査が入っていて、色々数値がでていますね。
 
<鎌田先生>
 
だから結局そういうことで、必要性はないかと。もう全部検査済みなのでそれ以上問題は出ないだろう、ということです。
 
<質問者D>
 
その労災事件については、今までは前例があるのですか、先生方がやっておられるみたいに。
 
<鎌田先生>
 
いや、初めてです。ダイオキシンについては。
 
<質問者D>
 
労災認定の手続き中なんですね。
 
<鎌田先生>
 
この2人分はです。
 
<質問者D>
 
労災はは認められていないのですか?
 
<鎌田先生>
 
今継続中で、まだそのままです。