ダイオキシンとごみ問題

1999 年 11 月 6 日 (土)

講演者: 中地重晴 (環境監視研究所研究員)


環境監視研究所の中地と申します。普段はどんな仕事をしているかといいますと、基本的には市民運動とか住民運動のための調査・研究機関ということで、今から 10 年ほど前からそういう仕事をやっております。行政とか企業と言うのはなかなか情報は開示しませんので、工場から汚い水が流れているとか、あるいはにおいがするとか、そんな相談を受けて、住民が安心して調査を頼めるところ、ということでやっております。

これは今から 10 年くらい前の写真なんですけれども、当初私ところの研究所でメインの仕事になったのは、ゴルフ場の排水から農薬を見つけるというのがありまして、88 年なんですけれども、奈良県の山添村というところで EPN という農協が、「水を汚染をするから使うな」と言っていたのがやっぱり見つかったということがきっかけでして、全国的にゴルフ場反対運動の一つの理由になったという調査をしております。当初 3、4 年はゴルフ場の排水ばかり全国から送られてきたものを測っていたのですけれども、バブル経済がはじけてゴルフ場の建設というものがパタっと止まってしまいまして、今度は逆にリゾート開発の為に買い占められた山間部が都会からきた廃棄物で埋められているということで、汚い水が流れているか測ってくれというような事で、全国各地のごみの処分場問題と関わりだしたということで、この 7、8 年になります。東京都の日の出町の遮水シート漏れとか地下水汚染とかその他色々な調査に参加しているということになっております。

あっちこっちの写真お見せしながらお話ししていきますけれども、今ごみの処理でこんなことがいわれているのです。まあ産業廃棄物処理をめぐる悪循環ということもあるのですけれども、ごみの処分場というのがますます逼迫しているというか、立地が困難になってきているという話があります。その原因が何かっというと不法投棄等による環境汚染というものが各地で問題になっていて、ごみの処分場に対して住民の不信感というものが非常に高い。もし自分の住むところの近くに建設計画が持ち上がれば建設反対の声が必ずあがる、都道府県等が要綱を作ったり、地元の同意というようなことを条例とかで規制をしようとしても、なかなか反対の声が強くて建設の見込みが不明確である。こういうことで結局最終処分場計画というのは、なかなか進まなくなって立地が困難だというようなことが言われているのです。これが 2 年前の 97 年のときに、廃棄物処理法を改正する際に厚生省が持ち出してきた悪循環の論理になるんですけれども、今全国各地で色々なところで公害調停や裁判等にかかっておりまして 200 件ぐらいというような話もありますけれども、処分場ネットワークの統計だと 450 件ぐらい紛争になっているということです。このままごみの処理が、処分場計画どおりに設置ができなくなったら、10 年後の 2008 年には日本でごみを埋め立てる場所がなくなる、というふうな予想を厚生省は勝手に言っております。ここまで極端にごみの処分場がなくなるとは思えないのですけれども、2 年前に廃棄物処理法を改正して処分場の基準を厳しくしたところ、1 年間にできた処分場が 8 箇所しかないというのが、1 週間前の朝日新聞に載っておりましたけれども、日本全国に 3000 箇所ある処分場がどんどん閉鎖していって、という話になると、あながちこのままごみの処分場問題が厳しくなればこういうことも起きるのかなというふうに思っております。

ちょっと基礎知識というか、ごみの発生から最終処分までと、廃棄物となってでたものというものがどういう処理がされるのか、というのをちょこっとお話ししておきますと、分かりやすいのは家庭からでるごみの処理なんですけれども、晩ご飯を作って出てくる食べ残しとか、あるいは野菜の切りくずとか、そうふうなものであるとか、あるいは新聞とか雑誌にしても朝刊は次の日になったら用がなくなるわけですから、所有者にとって用がなくなったと、不要になったものというのは廃棄物として発生をするということになります。家庭から出るごみの場合には週に 2 回程度、各自治体がごみの収集車、パッカー車というものを出してごみを集めるわけで、それを運搬して、現在ではほとんどの自治体で一旦ごみを燃やして埋め立てるというようなことをしております。今から 20 年ぐらい前まで、1960 年代から 70 年代前半までは家庭からでるごみはほとんどそのまま埋め立てをしていたわけです。例えば東京都の「夢の島」とか、あるいは関西では大阪市からでる家庭ごみというのは、ちょうど 10 年前に「花博」というものが鶴見緑地であったわけですけれども、あそこは昭和 30 年代大阪市の家庭からでるごみを埋め立てた場所なんです。生ごみと土とをサンドイッチに埋め立てていってあんな山になって、もとは沼地だったんですけれども、鶴見新山とか昭和新山というふうに地元の人がいうようになったのですが、多くの人に集まってもらって「踏み固めてもらったら地が締まる」と思ったかどうか知りませんけれども、ああいう花博の会場を作ったということです。当時は大きな遊園地なんかもあったのですが、やっぱり地盤がゆるいために鉄筋の構造物というのはずっと建て続けられないので遊園地はとっぱらって大きな温室と、今は「いきいき地球館」という博物館が 1 つあるだけ、ということになっております。で、そのあと大阪市はどうしたかというと、臨海部というか港のほうに矢板 (やいた) を打って人工島をつくって、そこに海底のしゅんせつ土砂と一旦工場で燃やした焼却灰を埋め立てるということで、それが舞州とか夢島という島になっておりまして 2008 年のオリンピック会場にしたいということになっております。そういった形で、なかなかごみの処理というものはうまくいかないという話であります。

お手持ちの資料の 2 ページ目になりますけれども、ごみの処理というものは基本的には大きく分けて一般廃棄物と産業廃棄物というものに分かれます。廃棄物処理法でそのことが決まっているのですけれども、一般廃棄物というのは基本的には家庭からでるごみのことをいいます。これに関しては誰が責任を持って処理をするのかということがあるのですけれども、それは各々の家庭のいわゆる市民が責任をもって処理をするのではなくて、市町村が責任をもって処理をするということになっています。それに対して産業廃棄物というのは、姿形で分類されているのですが、「燃え殻」 とか 「汚でい」 とか、あと 「廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック」 順番に 19 品目の姿形でどういうふうに処理をすればよいか、ということが細かく決まっているわけなのですが、その事業活動に伴って排出される産業廃棄物というのは PPP の原則といいますけれども、排出者責任というものがあって、各事業所が責任をもって処理をするということになります。ですから例えばトヨタや日産といった自動車を作っているところが自分ところからでてきたスクラップみたいなものを自分で処理をするのかというというと、そうではなくて、いわゆる都道府県知事の許可を受けた産廃の処理業者というところに委託をして処理をすればよい、というふうなことになっております。日本全国とにかくごみの処理量というものが今増えておりまして、例えばちょっと統計が古くなって新しいものに差し替えないといけないのですが、1985 年から 92 年の ―― これ家庭からでるごみ、一般廃棄物の排出量なんですけれども ―― 大体横ばいになっておりますが、年間 5000 万 t ぐらいの廃棄物が出ております。で、1 億 2 千万という人口と 365 日で割ると、1 人大体 1 日 1000 グラム、1 kg ぐらいの廃棄物を出しているというふうなことになっております。都市部ほどごみの排出量が多いという話がありまして、全国平均 80 年代の半ばに 5 年で 10% 以上上昇したのですが、東京 23 区とか、11 大都市が多いという話があります。それでごみの中味を調べますと、これは重量の割合でかいてあるのですが、生ごみというのは以前から比べると相対的に量が減ってきて、紙屑とかプラスチックの紙類が多くなったということになります。これは皆さんの家庭生活を考えても例えばスーパーとか今では 24 時間コンビニというところに行けばなんでも売っているわけですが、なんでもかんでもラップに包まっていてですね、あるいは発泡スチロールのトレイにのって売られているというようなことを考えてみられるとよく分かるかなというふうに思います。紙類が増えたのは逆にコンピューターが発達して OA 化というものが進んでコピーが多くなったとか、あるいは 1970 年に万博が大阪であったわけですが、そのときはオフィスが OA 化したらペーパーレスの時代がやってくるということだったんですけれども実際はそうではなくって、ますます紙の書類が増えているというのは皆さんご存じだろうと思います。それで、3 年前から 「容器包装リサイクル法」 というものを ―― 1997 年からですか ―― というものを国がつくって、「金属とかガラス、紙、プラスチック類というものは分別をして再資源化」というふうな言い方をしておりますけれども、リサイクルすりことになっております。今は缶とびんと牛乳パック、ペットボトルだけが回収の義務があるわけですが、来年の 4 月からはその他の紙の包装、あるいはその他のプラスチックの容器・包装も分別して回収するということになっております。で、ただ実際はどこまでそれができるのかというのはよく分からない、というふうな状況になっております。あと産業廃棄物のほうは年間 4 億 t ぐらい排出されているということになります。

全国各地でごみの処理というものは非常に大変なんですけれども、大体どれぐらいの施設があるかという話をしますと、一般廃棄物の場合は清掃工場、燃やすところは約 1870 で、埋め立てをしているところは 2250 くらいあります。処分場の余裕は 7、8 年あるわけなのですが、産業廃棄物の方は中間処理 ―― これは燃やす、焼却炉とあとは細かく粉砕したりするところもありますので燃やすところは 3000 ぐらいだというふうに言われておりますが ―― 1 万箇所あります。最終処分場は 2500 あるという話です。特にごみの処理でいうと首都圏と近畿に産廃の処分場の余裕に大きな差があります。近畿圏はフェニックス計画という泉大津から尼崎沖に大きな人工島を作って、そこに処理をしていて比較的余裕があるわけですが、首都圏の場合はどの統計を見ても 0.5 年から 0.8 年分ぐらい、―― 要するに年度計画を立てても年内のごみの処理が確保できない様な厳しい状況がありますので、首都圏中心に色々なごみ問題というのが起っているということになります。

全国各地に、どんなところでどういう問題が起きているのか、というのを少しお見せをしますと、例えば私が調査して関わった東京都の日の出町というところの谷戸沢処分場という ―― 第 1 処分場という ―― ところなんですけれども、80 年代の前半から 15 年ぐらいかけてごみを埋め立てたところです。面積が 43 ha のところに深さ 20 数メーターの大きな穴を掘って遮水シートを敷いてごみを埋め立てた、ということなんですけれども、日の出町というところは、中曽根元首相の 「日の出山荘」 という別荘があって ―― ひと山かふた山越えたところなんですけれども ―― レーガン大統領と会見をしたので有名になった別荘なんですが、非常に緑が豊かでいいところなんですけれども、レーガン大統領が来たときに東京の街中からどういうふうに運ぶのかということで、ここに赤い絨毯を敷いてヘリコプターで降ろそうという話が警備のためにもいいということで出たのですけれども、ごみの上に VIP を招くのはどうかということで、近くの中学校の運動場に変わったという経緯があるというところなんですが、ここで結局、これは電気伝導度というものですが、地下水にどれぐらい電気が流れやすいかという、色々なイオンが含まれているかというものを調べたところ、建設して数年経ってから非常に大きな値で、遮水シートが破れて地下水汚染を起しているという様子が分かったというような事例です。私のところで 92 年に入って、一番最初に調査をして大体そういうことの予測を立てたということになります。今は第 2 処分場という去年の 4 月にオープンしましたけれども、今度は面積が 100 haぐらいあって、大きなところに移転しようということになっています。ここの 1 部はちょっと見えにくいのですけれども、まだまだ工事の途中なんですが、立木トラストという反対派の人達がやっていて、一応強制収容、東京都の土地収容委員会で先月採決して、土地収容を決定したというふうな発表になっております。

あと、栃木県の那須というところ ―― 天皇家の那須の御用邸の近くなんですけれども ―― 売れない別荘地を土建屋が買いあさって、自社処分場ということで、1 箇所 3000 平方 m 以下ですと許可が必要なくって届出だけでよいというふうなミニ処分場というものがありました。1 つの保健所の中で 120 箇所ぐらいこういう小さな処分場ができたのですけれども、結局、下に遮水シートも敷かずに色々なものを埋め立ててしまったため、この場合には悪臭が出て、悪臭取りに煙突を立てたりとか、あるいはこの場合には濁った水が近くに湧き出してきて測りますと、水銀とか鉛とかという重金属がたくさん含まれていたというふうなことで問題になりました。こういう処分場についても、基本的には 2 年前の法律改正ですべてを許可制にしようということになっております。

近畿では、例えば奈良県の西吉野村という柿の産地なんですけれども、谷間を業者が買い占めて堰堤を作り、プラスチック中心に廃棄物を持ち込んだところこんな山になった。産廃富士というような名前がついてますけれども、裁判で一応ここまでしか許可されていませんから、この上は全部撤去をしなさいというふうな判決を住民の方は取ったんですけれども、業者の方では 「この前を買い占めているからこっちへ下ろせ」 みたいなことをどうするのかというようなことが問われていますけれども、こういう産廃の山というものは全国あちこちにできているというのが現状だろうと思います。色々な形で反対運動もあったりして、今日ごみの処理というものは、「安定型、管理型、遮断型」 というような処分場の形で行っておりますけれども、「安定型」 というのはプラスチックとか建設廃材とかという雨風にさらされても有害物が流れ出さないというようなもので素堀の状態でごみと土とをサンドイッチで埋め立てるという形式です。それに対して今問題になっていますのは管理型の処分場ということで、遮水シートを敷いて、雨が降ると若干有害物が流れ出すかもしれないので排水処理をして流すというようなタイプの処分場です。これは一般廃棄物、家庭から出る、とくに焼却灰なんかを含んだ処分場なんですけれども、これの地下水汚染というものは東京都の日の出町を始め各地で問題になっていまして、2 年前の法律改正でとりあえずシートについては二重構造にしようということで、そんな形で全部、今まで 1 mm か 1.5 mm から 2 mm ぐらいの薄いゴムのシートだけだったんですが、それを二重構造にして遮水シートを破損しないようにしようということになっているのですけれども、この構造で許可をされたのはこの 1 年間のあいだに 8 箇所しかないという話なので、なかなかごみの処分場の建設というのは少し暗礁に乗り上げているという話があります。

それとちょっと司会の方からもお話がありましたが、私が今関わっている問題として 1 番大きな話は、香川県の豊島の有害廃棄物の公害調停でして、姫路の業者が中心なんですけれども、約 50 万 t の有害な廃棄物、シュレッダー・ダストという廃自動車を解体したあと、鉄屑を抜いたあとの廃棄物を粉々にしてここへ持ち込んで野焼きをしてしまったために、鉛で有害廃棄物の判定基準を越えているのと、あとでお話をしますがダイオキシンが高濃度に含まれているという話があります。住民の人は廃棄物の撤去を求めて今公害調停を申請しておりまして、こんな黒い水があるわけですが、今、瀬戸内海への汚染が心配ということが一番問題になっているのです。が、それをなんとか処理しようということで調停のなかでは、中間処理というものをやって、いったん実験もやって ―― これは鉄鉱石の溶鉱炉に似ているわけなんですけれども、1200 度から 1300 度くらいの高温にして、そうしますと一旦廃棄物はみんなどろどろに溶けてそれが冷え固まると、ガラス状のこんな山砂の代わりになるようなスラグというものになりますので、このスラグは ―― 有害物の金属は逆に飛灰の、集塵灰の方に入っておりまして ―― ほとんど有害物がないということで、コンクリートと混ぜてアスファルトにするとか、あるいはコンクリート骨材のかわりに使うという話で再利用は可能だ。と、ごみの処分場もいらなということで、こういうような形で対策は取れないのかということを今公害調停ではやっています。というのが、ごみの処分場の問題としてはひとつあります。

それとあと、各地で問題となっている話としては「ダイオキシン」の問題でして、例えばこれは和歌山県の橋本というところの、これも今公害調停やられておりますけれども、業者がこういうちっちゃな焼却炉を作って処理を始めた、と。1 日 5 t しか燃やさないということだったんですけれども、操業して 2、3 ヵ月後に周辺、非常にすごい煙の匂いがして、40 人ぐらいの人が病院に行ったということがあります。一人の人は 1 月ぐらい入院をしたのですけれども ―― ここから 200 メートル位のところに住んでおられるのですが ―― 自宅に帰るとまた症状が出ると、化学物質過敏症という名前でいわれておりますけれども。それで結局、引っ越しをせざるをえなくなったみたいなことがあって、和歌山県もいろいろ調査をして、あまりにも操業がいい加減だという話になって、操業を業者と話して停止させたわけですが、停止した時点で業者が持ち込んできた廃棄物が 1 万 t ぐらい放置されているという状態にあります。1 日 5 t しか燃せないという能力からすると、とても許可された間で燃やせないものを持ち込んでしまっているということになります。結局それを和歌山県は、1 億円のお金をかけて撤去したわけですけれども、今業者がその周辺に埋め立てたところがあって、残土を持ってきていることになっているのですが調べますと、ダイオキシンが高濃度に検出されているとか、この谷間の下に ―― いわゆる谷間の沢をつぶして埋め立てておりますが ―― 水がずっと常時流れているのですが、調べますと有機物を含んでいるとか、あるいは鉛や重金属も見つかるということで、これの撤去も含めて問題になってきております。

こういった小型焼却炉の問題はダイオキシンの発生ということで全国で問題になってまして、例えば埼玉県の所沢のように周囲 1 km 位のところに 20 数件こういうふうな焼却炉があって、周辺の住民の健康への影響というのが心配されたり、というところがいくつもあります。全国各地で今のごみ問題ということでいいますと、埋め立てるところの話もあるわけですが、焼却にともなうダイオキシンの発生というのが今大きな問題になっていると思います。ダイオキシンの問題というのはお手持ちの資料の 3 ページになりますけれども、「ダイオキシン問題の歴史」ということで少しまとめてありますけれども、元々ダイオキシンの危険性がなぜ分かったのかというのは、ベトナム戦争のときにアメリカ軍が「枯葉作戦」という ――「枯葉剤」というふうに呼んでおりますけれども ―― 日本でも売られていた「2,4,5-T」という除草剤をヘリコプターで空中散布したわけです。ジャングルに逃げ込んだベトコンの兵士を探すために、ジャングルごと枯らしてしまおうということで、除草剤を散布した後にナパーム弾や火炎放射器でジャングルを焼き払うということをしたために、除草剤にもダイオキシンが含まれておりましたし、山火事ということも含めて大量のダイオキシンが発生して、それを浴びたベトナム人の兵士や、あるいは家族の中に流産とか死産が多くなったとか、あるいは、数年前に日本にきて手術を受けましたが、ベト君とドク君のような 2 重胎児というか、そういう先天異常の子供がたくさん生まれたという事件がおきました。これは別にベトナム人だけが被害を被ったのではなくて、戦争に従事した ―― 枯れ葉作戦に従事した ―― アメリカ軍の兵士であるとか、韓国軍も 30 万人ぐらい出兵してまして、アメリカ人・韓国人がいわゆる帰還兵の中でも同じような神経障害であるとかが起きまして裁判になっております。アメリカの方は数年前に PL 法の絡みで、補償が得られたわけですが、韓国ではまだ係争中という話になっております。それと 76 年にはイタリアでセベソという農薬工場で爆発事故が起きて、周辺 10 km くらいの地域住民が強制移住をするという事故が起きたわけです。今から 30 年前あるいは 20 年くらい前の認識ではダイオキシンの被害というのは、戦争であるとかあるいは農薬工場の爆発事故といった特殊な事例だったわけですが、77 年にオランダのオリエさんという先生がオランダの都市ごみの焼却炉からダイオキシンを検出をして、いわゆるダイオキシンというのはそういう特殊な事故ではなくて、都市の住民の公害問題として認識するべきだということになりまして、80 年代のはじめからドイツやヨーロッパではダイオキシン対策に取り組んだということになっています。それに対して日本というのは若干認識が甘くて、83 年に愛媛大学の立川先生のグループが中国地方とか四国地方の清掃工場のごみの焼却灰からダイオキシンを検出したのですけれども、厚生省はそのときに委員会を作って一旦安全宣言をだしております。それで、実際日本でダイオキシン規制というのを始めたのは 1990 年、厚生省が旧ガイドラインというものを作ってからという話になっております。よく日本とヨーロッパではダイオキシン対策は 10 年遅れているという話があるのですが、技術的に日本が 10 年遅れているということよりも、問題を認識して取り組んだので日本では 10 年出遅れた、というのが今だに響いているというふうに私は考えております。結局日本のダイオキシン対策というのはこの 2、3 年急ピッチに進んでおりまして、97 年に厚生省は新ガイドラインというものを作ってそれ以降排ガス中のダイオキシンを規制する、と、あるいは文部省や環境庁が色々な形で取り組みを始めて、今年の 7 月に「ダイオキシン類対策特別措置法」というものを制定した、と、来年の 1 月から施行するということになっております。97 年に厚生省が新ガイドラインを作ったときに、全国の各自治体の清掃工場のダイオキシン濃度を一回測ろうと、1 Nm3 当たり 80 ナノグラムという閉鎖基準というものを作って、それをこえたのが 1500 位測って全部で 105 箇所ぐらいあります。一番最初データがまとまった段階、4 月の始めで見た場合には、兵庫県の宍粟郡の宍粟環境美化センターというのが 990 という非常に大きな数字で、これが日本一だということになりました。これは愛知、兵庫、和歌山というようなことになっておりまして、大阪の能勢の豊能美化センターというのがでてこないのですが、豊能美化センターはこの時点ではデータ隠しをしていて、そのデータ隠しがおかしいのではないかということで、2 回徹底した調査をしたことによって大きな問題として去年発展したということになっております。

ダイオキシンとはどんなものかということで、若干化学式をお見せしますけれども、あまり難しいのでこういうものはこれ限りにしますけれども、高校のときにベンゼン環 ―― 亀の甲というふうに覚えましたねえ ―― というのを 2 つ、酸素 2 つ、あるいは酸素 1 つで結合したものに、1 番から 9 番まで塩素が 8 個まで入るわけですけれども、入ったような化合物の総称です。このダイオキシン類対策特別措置法以降はコプラーナ-PCB という PCB の仲間で、ノンオルトといいますけれども 2 番、2’と 6、6’というこの位置に塩素がない PCB なんかも含めてダイオキシンとして認識をするということになります。一応ダイオキシンのなかで一番毒性の強い "2,3,7,8-TCDD" というのは、こういう化学式、2 番と 3 番と 7 番と 8 番という位置に塩素が合計 4 つあるというのが一番毒性が強いのですけれども、これの毒性を 1 としてあとの化合物については相対的な係数をつけて、それのトータルでダイオキシンの濃度というものを示します。3 ページの 7 番にですね毒性等価係数という表をいれたのですけれども、こういう表で一番つよいジベンゾフランとしてはこの 0.5 とか、0.1 とか 10000 分の 1 のところまでの毒性の強さに開きがあるわけですけれども、こういったものをトータルして、例えばこれは能勢の場合の結果表ですけれども、塩素が 4 つとか 5 つとか 6 つとかいうような各々の化合物ごとに数字を出していって、係数をかけてトータルの一番最後のこの下に 2900 というふうに書いてありますけれども、例えば 1 グラム当たり 2900 ピコグラム "pg" というような言い方で表わします。マスコミで出てくる数字というのはこれだけです。ただ実際はダイオキシンの濃度調べる場合には1つの分析値でもこれぐらいの色々な化合物を足してだしているということになります。

ダイオキシンの毒性というのはどれぐらい強いのかという話で、お手持ちの資料の 4 枚目に入りますけれども、<一般毒性> といいますか、一つは急性毒性は非常に強いという話があります。これはラットというねずみにおける 50% の致死量、10 匹中 5 匹が一回に死ぬ量という話なんですけれども、農薬のなかで一番毒性が強いといわれている DDT とかディルドリンとかいうものが大体、体重 1 kg 当たり 100 mg 位だというふうにいわれております。これはネズミの話ですけれども人間に置き換えるとしますと、体重 ―― 日本人の場合は 50 kg というのを標準体重いうようにしておりますから ―― 50 倍しますと 5000 mg、―― 5 g ぐらい ―― 喫茶店に入ってコーヒーを注文して付いてくる砂糖の袋が大体 3 g 〜 5 g ぐらいですから、あれ一袋分ぐらいの農薬の 100% のものを飲めば死んでしまう、という話になります。農薬で自殺をしようとするとそれぐらいの量を飲まなければならないという話になるのですが、ところが "2,3,7,8-TCDD" という一番毒性の強いダイオキシンの致死量というのは、0.02 〜 0.06 mg というふうにいわれているように、これを 50 倍しても 3 mg 位にしかなりませんから、さっき言ったコーヒーに付いてくる砂糖の袋でいうと、もし 100% のこいつが手に入ったら、砂糖一袋で 1000 人から 2000 人ぐらいの人が死んでもおかしくないというような量です。ただそういうことが起きないのかというのは、非常な毒物なので、日本では環境庁の国立環境研究所が胴元といいますか、一括管理をしていますのでなかなか手に入らない、ということになっております。ちなみに去年問題になりました「和歌山のカレー事件」のその“ヒ素”であるとか“青酸カリ”というものはこれよりも毒性は 100 分の 1 ぐらい小さい、というふうな話になります。非常にすごい猛毒な物質だというのが一つと、もう一つは厄介なのは、慢性毒性というふうに言っていますけれども、毎日少しずつ身体の中に取り込みますと発癌物質として働くという話があります。

<グループ 1>: 人に対して発癌性がある、というようなことは動物実験と疫学的な調査とで分かっているのです。で、特に発癌性の問題を考えますと、「生物学的な半減期」、お手持ちの資料の 4 ページの (9) の表ですけれども、一旦身体の中にはいるとダイオキシンというものはなかなか外へ出ていきません。食べ物等を通じて身体の中に入りますと、例えばおしっこであるとか、汗であるとか、髪の毛から排泄されるわけなのですが、半分になるの期間が 5 年から 10 年というふうに言われておりますから、一旦、毎日知らず知らずのうちに取り込んでいるものというは、身体の中に蓄積をされるということになります。身体の中に入ったダイオキシンは基本的には水に溶けにくいという性格がありますので、9 割が脂肪に溜まります。1 割が肝臓に溜まるというふうにいわれております。それでダイオキシン問題で厄介なのは、さらにダイオキシンというものはどうも環境ホルモンとしての、環境ホルモン物質として生殖毒性があるというようなことが分かってきた、ということになります。環境ホルモン物質というものはどんなものかというお話はちょっと厄介なんですけれども、ある種の化学物質というものは細胞の中に ―― ホルモンというのは色々なところで出来るわけなんですけれども ―― 例えば性ホルモンが細胞の中に入った場合にはレセプターというものと結合して細胞の中の核の中の DNA に指令を出して、ある種のタンパク質を合成しなさいとか、あるいは細胞分裂しなさい、みたいな働きをしているのですけれども、いくつかの化学物質というものはその女性ホルモンと同じような動きをして、誤って、ホルモンのレセプターと結合して誤った信号を核の DNA に出すというようなことで、その為にいくつかの色々な障害が起きてきているということがいわれております。

1 つは人間の健康への影響ということでいうと、化学物質、環境ホルモン物質が入ると、一つは男性にあっては精子数が減ってきているという話があります。これはデンマークのスカケベックさんという先生がデンマークの医学論文の中に「健康な成人男性の精子の数」というのを平均が書いている 50 位の論文を年代別に並べたところ、1940 年頃から 1990 年、50 年間のあいだに精子の数というのは半分ぐらいに減ってきているという話であるとか、あるいは子供が作れないような不妊症、不妊に関係するような精子の数が少ない人が、当初は数パーセントだったのが今は 20% 近くいるというふうな研究論文を発表されています。日本人の場合にはどうかというのは、こういった研究がないので今の 20 代の若者と 40 代の中年の方の精子の数をボランティアを集めて調べたところ、やっぱり同じぐらいで半分とはいいませんけれどもそれぐらいの割合で中年の方のほうが多いという話になっております。

あるいは女性にあっては子宮内膜症というのが増えてきているという話があります。アメリカのお話ですけれども、アメリカ人の女性の場合、20 年前は子宮内膜症のり患率というのはせいぜい 1000 人に 10 人ぐらいの割合だったのですが、今では 5 人から 8 人に 1 人位の割合だというふうにいわれております。子宮内膜症が進むと不妊症につながるということです。あるいは日本でもそうですけれども子宮癌とか卵巣癌とか乳癌といった癌が増えてきておりまして、アメリカ人女性の 8 人に 1 人の割合で必ず乳癌にかかることになってきております。こういったものは胎児期ですとか乳幼児期にいろんな化学物質を身体のなかに取り込むことによって生殖障害を起したのではないかというふうに言われております。

そういった生殖障害を起すというふうにいわれている化学物質というものはだいたい 70 種類ぐらいあげられているのですけれども、大きく分けて 5 つくらいのグループであって、1 つは残留性の強い有機物塩素化合物ということでダイオキシンとか PCB とか、あるいは 1950 年代日本でよく使われたペンタクロロフェロールといった除草剤なんかがあります。

2 番目はプラスチックの原料とか添加剤とかあるいは非イオン系の界面活性剤に使われているものなのですけれども、アルキルフェノール類とかビスフェノール A、これはポリカーボネート食器の原材料でして学校給食のプラスチック食器だとかあるいは赤ちゃんの哺乳瓶とか、あるいはコーヒーのマグカップなんかに使われている。フタル酸エステル類というものはプラスチックの可塑剤というふうに言うのですが、整形加工しやすくする為に混ぜられているものでして、例えば塩化ビニルの水道管なんかを作る際に数 % 混ぜられるというようなものなのです。あとこれも一昨年問題になりましたスチレンの 2 量体、3 量体というのは、発泡スチロールの原料でして、熱湯でカップめんの容器から溶出をする、というようなことがいわれております。

40 種類ぐらいの農薬がありまして、ディルドリンというのは除草剤として水田の中で使われておりましたし、日本では DDT というのは今では使われておりませんけれども、インドでは今でも使っていて散布して 24 時間以内に 8 割ぐらい、ひと月たてば 99% が蒸発をしてしまって、いわゆる偏西風によって北極というか日本の上を通過して、北極目指して DDT が移動していくという話があります。北極海のアザラシとか熊なんかを測ると DDT がかなり高濃度に検出されるという話があります。あと、シペルメトリンとペルメトリンとかいうのはいまでも、蚊とかダニとかゴキブリの殺虫剤として使っております。そういうった農薬の仲間があります。

あと、重金属の仲間でもカドミウム、鉛、水銀というものはどうも環境ホルモン物質として作用しているのではないかといったことが言われているということになります。

こういったものがあって、わたしはダイオキシンとか、現在進行形で使っている様なプラスチックの原材料については何らかの対応策を採らなければいけない、と思っております。こういうことがあって、ダイオキシンの TDI (耐用一日摂取量) というふうに言っておりますけれども、身体の中に ―― いいものではありませんから ―― とりあえず我慢できる範囲というものを決めましょう、ということでドイツやオランダというものは 1 〜 10 というふうに規制をしていたわけですが、日本は 2 年前に 10 という数字にして、その前は 100 というような数字でやっていて、「それは高過ぎるのではないか」ということがずっと議論されてきたわけですが、WHO は去年 1 〜 4 で規制をすべきだということを言いましたので、今度のダイオキシン類特別措置法からは、規制のレヴェルでは体重 1 kg 当たり 4 ピコ g と、目標としては将来的には 1 ピコというので規制ができるような基準を設けましょうということになりまして環境基準等が設けられることになりました。

今、現在ダイオキシンがどれくらい日本で排出されているのかというのは、5 ページの (10) の <ダイオキシンの発生源と年間排出量>、カラーコピーのものをコピーしてしまったので非常に分かりにくいのですが、これがもとのページでして、合計で年間 5140 〜 5300 グラムぐらい発生をしてきております。そのうちの大ざっぱな見積りですから、もっと出ているのではないかというふうに言われているわけなんですけれども、家庭から出るごみ、一般廃棄物の燃やした焼却炉から 8 割ぐらい、産業廃棄物の焼却炉から残り 1 割ぐらい、それ以外に金属精練 ―― 以前はアルミとかスチール缶を回収をしてリサイクルする電気炉の工程から出ているという話だったのですが ―― どうも石炭を燃やす精練、鉄の精練行程とか色々なところで金属精練にともなってダイオキシンが排出をしている、ということが最近では分かってきております。あと量は少ないのですけれども、たばこの煙というものは実験的に吸うほうの煙も、伏流煙という自然に燃やしていたときに出るような煙にも、どちらにもダイオキシンが含まれているということがあります。少ないように思われるかもしれませんが、ドイツが焼却炉からだしているダイオキシンの量が年間 2 g から 20 g ぐらいだというふうに言われておりますから、ばかにならない量だということで、出来れば健康の為にはたばこはやめていただきたいというのが私の感想でございますが、。

以前は製紙工程で塩素で漂白するために製紙工場から出るのではないかとか、あるいは農薬の不純物ということで出てくるのではないかという話があったのですが、農薬も最近はほとんど塩素系の農薬を使っていないために現時点で新しく発生する量はほとんどありません。製紙工程もオゾンで漂白するようになってほとんどゼロになってきております。ただ日本の環境 ―― 土壌の問題でいいますと ―― 1960 年代から 80 年代にかけて CNP という除草剤を使っていてそこに不純物としてダイオキシンが含まれておりましたので、水田の土壌には結構ダイオキシンが残っております。ただ現在はほとんどごみの焼却にともなってということで、なぜごみの焼却に伴ってダイオキシンが発生するのかというお話なんですけれども、大体こんなことが言われておりまして、クロロベンゼンとかクロロフェノールというのはプラスチックの分解生成物です。炭化水素、あるいは未然の炭素というものは生ごみなんかにも含まれているわけですが、こいつと塩化水素、例えば塩化ビニルを 100℃ から 200℃ に加熱しますと簡単に発生しますけれども、塩素ガスといったものと、触媒に銅とか塩化銅といった重金属が触媒になって大体 300℃ から 600℃ ぐらいでダイオキシン類が合成される、といわれております。簡単にいえばプラスチックであるとか生ごみであるとか、あるいは銅線、電線のような金属なんかを一緒くたに集めてきて、一緒くたに燃やせればダイオキシンが発生するということになります。以前は分別回収もせずに何でもかんでも一緒くたにごみを燃やしておりましたからそういうところからダイオキシンが発生するといわれております。この間都市ごみの焼却炉でこういう反応が起きているだろう、といわれております。

集めてきたごみの中にはすでにいくらかダイオキシンというものが含まれているのですが、それを焼却炉で燃やします。800℃ 以上の高温になりますと、一旦ダイオキシン類は分解をします。ところがそれを煙突で煙を出すわけなのですが、排ガス回収ボイラーから排ガス処理装置というふうに書きましたが、今は公害防止という観点から煤塵を出してはいけないということで、電機集塵機というもので埃をとって煤を採ってそれから排ガスとして煙突から出すわけなのですが、この電機集塵機というものはちょうど 300℃ ぐらいで運転するということになりまして、逆にここで一旦分解をしたダイオキシン類もここでもう一度再合成されて、排ガスからたくさん大気中に放出されるということが一番の問題だということが分かってきました。それで、厚生省も 2 年前の新ガイドライン以降はここはもう電機集塵機を使わずに 200℃ 以下で排ガス、集塵しなさいということで、バグフィルターという布製のフィルターで集塵をしてそれから煙突で出すというふうに代わってきております。それと例えば、宍粟郡の美化センターであるとかあるいは、能勢町の豊能美化センターが問題になったのは、この焼却炉の過程で逆にダイオキシンが大量に発生したということが分かってきております。地方にいきますと 1 日 10 t とか 20 t 燃やす小さな焼却炉で操業されています。そこは 24 時間燃やすのではなくて、1 日 8 時間から 10 時間程度しか燃やすごみがない、ということで朝、7 時とか 8 時ぐらいからごみを燃やし始めて 800℃ の温度にいくまでに 2、3 時間かかる。それを立ち上げというふうに言いますけれども、それで安定して燃やしていて、午後 4 時、5 時になりますと、集めてきたごみもなくなって火を消さなければならない ―― 立ち下げといいますけれども ―― この立ち上げ立ち下げというものは、800℃ 以下で不完全燃焼をしてダイオキシンは非常に大量に発生するというようなことが分かってきております。それでその対策をしなければならないということで、厚生省は出来れば 1 日 100 t 程度の大型化、連続運転する焼却炉に替えていきなさいというふうな指導をしています。大体 1 日 100 t ぐらいのごみというのは人口 30 万人ぐらいでないと運転出来ない、とそれぐらいの規模だということで、都市部ではそれほど問題になっておりませんが、地方にいきますと人口 30 万人を集めようとすると、5 つも 6 つもの町が一緒にやらなければいけないということで、どこに焼却炉を持って行くのかということで問題になってきております。この辺でも能勢町の豊能美化センターを廃止するためにどうするのかという話で、隣の川西市が広域処理をしようということで助け船を出しているみたいな話につながってくるわけです。

それでダイオキシンの、焼却に伴うダイオキシンのことでいいますと、日本は非常にごみを燃やす焼却率が非常に高いというのと、あと特徴は小さな炉で燃やしているということがあります。アメリカやドイツというのはせいぜい 20% 前後の焼却率しかなくって、炉の数も 50 から 100 ぐらいだということになります。1 日当たりに直すと 500 t とか 600 t という大阪や東京、神戸並みの大きな焼却炉しかありません。ところが日本は各市町村で処理をしなさいということが廃棄物処理法で決められてしまったために 1800 箇所ある。平均しますと 1 日 50 t から 60 t 位の小さな炉ばっかりで燃やしているというのが特徴で、もしダイオキシン対策をしなさいということが急に決まっても、ドイツやアメリカでは比較的簡単に短い期間に処理をすることが可能ですが、日本の場合にはちょっと今そういうふうにいかないという事情があります。

ダイオキシンの問題というのは若干ややこしくて、例えばこの間問題になったのはこういう小さなドラム缶とか一斗缶に煙突を付けたような小型の焼却炉というのも調べてみますと、焼却灰からダイオキシンがでるという話があります。ほとんど、お手持ちの資料の 5 ページの 13 番に同じような表がありますけれども、これは厚生省の家庭から出るごみの焼却灰あるいは飛灰のダイオキシンの濃度をざっと書いたわけですけれども、簡易の焼却炉の大阪府とか松山とかでも一般廃棄物の焼却灰と同じぐらいの濃度でダイオキシンが発生をしているということが判って、こういった簡易の焼却炉の使用も規制していこうということになっております。文部省が去年の 4 月から学校施設の小型の焼却炉、これよりももう少し立派な焼却炉ですけれども、ダイオキシンの発生が懸念されるので学校ではもう燃やさずに市町村の大きな焼却炉で燃やしなさいということになっております。この小さな焼却炉は各地で問題になっておりまして、それぞれごみの減量のためということで清掃工場に持ってくるごみを減らすために家で燃やしてくださいということで、補助金を出しているというのがあります。これであちこちで混乱が起きたということが一つと、あと大気中のダイオキシンの濃度。

環境中のダイオキシンの挙動についてちょっとお話をしますと、日本というのは非常に大気中のダイオキシンの濃度が高いということがお手持ちの資料の 7 ページの 18 番に少し書きましたけれども、日本・アメリカ・ドイツというようなところでといいますか、特定した濃度だけで最高値だけで比べますと、アメリカやドイツというのは最高値でもせいぜい都市域とか工業地帯で 0.35 とか 0.15 というような数字です。今度できる法律で環境基準を 0.6 にしようというのが日本の環境庁の提案なんですけれども、最大値でいいますと、工業地帯で 1.3 とか大都市で 1.76 みたいな話ですね。かなり高いです。平均しても 0.59 とか 0.53、辛うじて新しく定められる環境基準ぎりぎりのところが日本の大気の濃度だということになっております。

そうだからといって、身体の中にどうやってダイオキシンを取り込んでいるのかという話をしますと、大気から来ているかというとそうではない。大気中のダイオキシン摂取というのはせいぜい 1.5% 位だというふうにいわれております。大半といいますか 98% 位は、食事を経由をしてダイオキシンを摂取をしているというのが日本人の一般的な傾向です。水とか土からの摂取割合というのは非常に少ないということになります。

新しい統計でお見せしますけれども、ドイツとかカナダと比べて日本人のダイオキシンの摂取量はどれぐらいかというと、これは厚生省の一番新しいデータを使ってますけれども、これによりますと 2.5 ぐらい。ドイツやカナダというのは体重 1 kg あたりに直すと 2 ピコグラムぐらい摂取をしているということになります。どこがどう違うのかというと、ドイツやカナダというのはドイツ人の場合には乳製品とか肉製品から 7 割から 8 割、カナダも 9 割ぐらい摂取しています。ところが日本人というのは摂取割合でいうと魚貝類から 6 割ぐらい摂取している、と、牛肉とか乳製品は 2 割ぐらいで非常に少ないということが分かってきております。なぜそういう結果になるのかということなんですけれども、日本人は確かに魚をたくさん食べるということもあるのですが、その濃度の話をしますと、魚というのは食物連鎖というもので非常にダイオキシンを溜め込みやすい話があります。これは『奪われし未来』という本の PCB の話をですけれども、大体考え方としてはこのままでいいわけなのですが、やはり湖にしろ、海の中のダイオキシンの濃度を 1 というようにしますと、植物性のプランクトンとか動物性のプランクトンが生物濃縮といって 250 倍から 500 倍ぐらい濃縮をします。それを食べるプランクトンがさらにそれぞれ 200 倍ずつ濃縮しますと、45000 倍ぐらい濃縮した形になる。それを食べる小魚が 83 万 5000 倍濃縮にし、それを食べる大きな鱒の仲間は 280 万倍濃縮をする。要するに水から比べると、それぐらい高濃度にこの肉の中に溜めてしまうという話になります。この魚、鱒を食べるカモメの仲間がさらに 2500 万倍濃縮をするという形で、もとは少なくてもそれが食物連鎖というもので非常に高濃度に濃縮をされるということがあります。当然人間はその食物連鎖の最上位というふうにいいますけれども、魚を食べたりしているわけで、身体の中にダイオキシンを摂取をするということが非常に多いということが言われております。この食物連鎖による公害問題ということでいいますと、私たちはすでに 40 年前に苦い体験をしておりまして、熊本県の水俣で、チッソの水俣工場が工場排水から有機水銀というものを流して、同じような形で海から魚にいって、魚を食べた猫が最初に発病し、そのあと人間が狂い死んだということがあるわけなのですけれども、それと同じ様なことがダイオキシンでも起きるかもしれない、ということになります。それで厚生省はダイオキシンの発生量をこれから抑制をする、と、減らすということでこの食物連鎖の環というものを縮めていこうという話になっております。まだ先ほど言ったのはこんなもので、日本の平均はこれぐらいで、カナダやドイツというのはこれぐらいで、ただダイオキシンの測定数が非常に少ないので、今のところその原因当たりに直しますと非常にばらつきが多いというのが食べ物に関してはあります。

そういうことの中で言いますと、ダイオキシン問題で一番厄介なのは食物連鎖の頂点に人間がいるわけなんですけれども、その大人の場合には食べ物から摂取をするダイオキシンの濃度が厚生省、WHO が基準にしている体重 1 kg 当たりに直して 4 ピコグラムという規制値ぎりぎりのところに今来ているということなんですが、ところがその母乳中のダイオキシンの濃度というものを測りますと、ベトナム戦争で被害にあったベトナム人であるとか、あるいはドイツやカナダ人と比べてもかなり日本人というのは非常に高いことになります。この濃度の母乳は赤ちゃんが生まれて生後 1 年のあいだ飲むわけですけれども、それが非常にその許容値 ―― 大人に許された範囲 ―― の数字の数倍から十数倍高濃度のダイオキシンを摂取しているということになって、それが将来の発達に影響するのではないかということが今問題になっています。元々母乳で子供を育てるというのは育児のイロハでして、お母さんの母乳からバランスよく栄養を取るとかあるいは感染症の予防のためには、お母さんの抗体を母乳を通じて摂取をすれば風邪をひかないというような話があったのですけれども、ことダイオキシンに関すればそういうことがいえないという話になってきております。例えばこれらの母乳保育と人口乳保育で育った赤ちゃんの血液中のダイオキシン濃度という話なんですけれども、母親の血液中の濃度とほとんど同じなんですけれども、母乳の濃度、それで母親の血液の濃度、母乳のほうがずっと下がってしまって、乳児に移動してしまっているということが判るわけです。

統計的な話をしますと、よく分かりませんがアトピーにかかる子供の割合というのは人口乳保育よりは母乳保育のほうがアトピーにかかりやすいというふうなことを言う人もおられまして、この辺を厚生省がきっちりと調査をしなければならない、ということに今は議論としてはなってきております。

大体時間も来ましたのでまとめ的なお話をしますと、ダイオキシン問題というふうに考えた場合、こんなことが言えるだろうと云われております。

もともと化学物質の開発としたわけですけれども、NaCl-食塩あるいは海水を電気分解してか性ソーダを取ろうというような工程が考えられて、このか性ソーダというのは 100% さまざまな化学薬品の原材料として有効利用されてきました。そのときに副産物としてできる塩素というものは以前はほとんど捨てられていたわけなんですが、とりあえず有効に活用しよう、というようなところから始まって、例えば塩素で漂白殺菌をしますと、水道水なんかは殺菌をしているわけですが、そうすると水道水中にトリハロメタンという厄介なものができるとか、あるいは塩素というものでできるトリクロロエチレンとかパークロロエチレンというものは、機械油を取るのには非常によかったわけなんですけれども、地下水を汚染するというのでいろんな電機工場で今問題になっておりますし、あるいはフロンガスもこの工程でできるわけですが、オゾン層を破壊するということで使用禁止になりました。あるいは DDT とか BHC とかその他塩素系の除草剤というのは開発されましたけれども毒性が強いということで今だ使用されなくなりました。ただ工業材料としては PCB というものは毒性が強いというのでこれも 20 年前に製造・使用が禁止になりましたが、塩化ビニルとか、あるいはポリ塩化ビニリデンというのはサランラップのことですけれども、そういったもの)に使われています。こういったものがまた焼却をすればダイオキシンの発生に非常に関与してくるということで、それから環境汚染、人体汚染へというように進んでいくということを考えますと、私たちの今の現代文明といいますか、生活の質みたいなことをもう一回考え直さなければいけないのではないかな、と。要するにこういった化学物質を安易に使うこと自体が、逆にどうも色んな意味でしっぺ返しを ―― まさにダイオキシン問題ということで ―― 来ているのではないかと思っております。そういう意味でこれからますますダイオキシンだけではないですけれども、化学物質 ―― 特に環境ホルモン物質というふうに云われているいろんな物質の取り扱いであるとか、使用とか、破棄の仕方とかそんなことを慎重にしていかなければいけないのではないかな、と思っております。

まとまりませんけれども、とりあえずちょっとこの辺で私の話は終わりにして、何か質問がありましたら、・・・。