いま検察に何が起きているのか

2010 年 5 月 08 日 (土)

講演者: 魚住昭 (ジャーナリスト)


司会者挨拶 | 講演内容 | 質疑応答


司会者挨拶

七堂弁護士 (司会; 自由人権協会大阪・兵庫支部事務局長)

いろいろとご迷惑おかけいたしまして大変申しわけございません。本日、自由人権協会大阪・兵庫支部総会記念講演会ということで、「今検察に何が起きているのか」というタイトルで、フリージャーナリストの魚住昭さんに来ていただきまして、検察に関して長年取材を重ねてこられて、その変化、現在どういうふうになってきているのかということについてもご講演いただきたいと思っております。
本日、新聞に5大紙に全部掲載されたということで、それをごらんになって来ていただいた方も多いかと思いますが、ちょっと本当に大変な人数になってしまって、非常にご迷惑をおかけして申しわけございません。改めてお詫びいたします。ですが、ちょっともう時間も少し過ぎましたことですので、始めさせていただきたいと思います。ちょっと後でもう少し椅子を増やしますのでごたごたしますけれども。
それで、まず魚住先生のほうにご講演をいただきまして、その後で質問などもお聞きしていくつもりでありますが、ちょっともうあまり残ってないかもしれませんけども、一応お茶と紙コップをそちらに用意しております。もう余りないですね。
それと、来ていただきました方は、ご記名と、あとよろしければアンケートのほうもご協力お願いいたします。
それでは、始めさせていただきたいと思います。では、魚住先生、どうかよろしくお願いします。

魚住氏講演内容

魚住です。きょうは、私の話をお聞きいただくために来ていただいて申し訳ありません。私は書くのが専門であまりしゃべるのがうまくないので、ちょっとお聞き苦しいかもしれませんけれども、少し我慢してください。きょうは、多分皆さん、ご関心がおありなのは2つあると思うんですね。東京のほうでは、小沢一郎さんの政治資金規正法違反事件の捜査で、先日、検察審査会が起訴相当という議決を出しまして、それがこれからどうなっていくのかということと、それから大阪のほうでは、厚労省の村木厚子元局長ですね。あの方の裁判が大変なことになっているというのも、皆さんご存じだと思います。これは大阪地検特捜部がやっているんです。

どっちから行こうかなと思ったんですが、大阪地検特捜部がやった厚労省の事件も、東京地検の特捜部がやった小沢さん絡みの事件も、実はこれ検察の捜査の歴史というのをある程度知ってる人間にすると、驚天動地の出来事なんですね。小沢さんのほうは今まで被疑者として政治家の事情聴取をやるというときは、必ずもう政治家が否認しようと何しようと、起訴できるだけの材料を持って事情聴取をすると。そうでないと、むやみに政治的な混乱を与えてしまうからという、いわゆる捜査の常識があったんですね。ですから、私は小沢さんが事情聴取を受けたというだけで、これは小沢さんの起訴は100%間違いないと思ったんです。ところが、蓋を開けてみると不起訴という結果になりまして、びっくりしました。これは逆に言うと、起訴できる材料を持たないまま、とにかく話を聞いてみようというような非常に安易な捜査をしたということなんですね。それで、結局話を聞いてみても、それから元秘書の石川知裕さんという衆議院議員がいますが、石川さんら3人を20日間、いくら追求しても結局小沢さんを起訴できる材料が出てこなかったんです。これは前代未聞のことなんですね。そういう出来事が、今年の1月から2月にかけてありました。

それで、今年のまた1月からずうっと今まで大阪地裁で村木さんの公判が進んでますね。これもまた前代未聞の出来事でして、どこが前代未聞かというと、大体刑事裁判というのは、まず検察側の証人が呼ばれるんですね。検察側が既にとってある検事調書というものの内容に沿った形で、その検察側の証人がしゃべるんです。それでしゃべって、被告の犯罪を立証して、そのあとで弁護側の証人が出てきて、それは違うという反論をすると。それで、それを見ていて裁判所が有罪か無罪か判断するというのが一応建前なんです。

今回の村木さんの事件が異様なのは、検察側の証人が検察側の主張内容をことごとくひっくり返していくんです、それも検事の尋問に対して。審理の記録を読んでますと、途中で「本当にこれが検察側の尋問かな?」と思うような形で、検察側の質問の仕方も悪いんでしょうけども、検察側の証人である人たちが、検察側が立証しようとしたことを全部ひっくり返していくんです。で、これ結論からいうと完璧な冤罪です。後でもう少し詳しくお話ししますけれども、多分というか、恐らく村木さんは無罪になると思います。村木さんが無罪にならないと、裁判の意味というのがほとんどなくなります。それぐらい、出てくる人出てくる人が村木さんの冤罪を立証するような証言をしているわけです。

つまり、大阪と東京で同時に特捜部の捜査能力の極端な低下現象というのが、一般の人たちにもわかるような形で、一挙に噴出してきているというのが今の特捜部の検察の現状なんです。それで、「特捜部」というのは「特別捜査部」というのが正式な名称なんですが、僕ら仲間うちで冗談で言ってるんですけども、東京もひどいけど大阪はもっとひどい。だから東京の特捜部の名称は「特別低能捜査部」だ。大阪の特捜部の本当の名称は、「特別無能捜査部」だという風に言ったほうがいいんじゃないかというような冗談を言い合ってるんですが、本当にそういう状態になっております。

今日はそうなっていった原因を歴史的に、検察の歴史というものを振り返りながら少しお話できたらなと思っているんですが、その前に私自身と検察との関わりをご説明しておきたいと思います。実は、私、共同通信の社会部の記者を20年ほどやって、15年ほど前に中途退社しまして、それからフリーのライターになりました。共同通信にいたころは、ちょうど1989年のリクルート事件の最中に検察の担当記者になりまして、朝から晩まで特捜部の検事さんたち、あるいは事務官の人たちに接触しまして、いわゆる検察リークというのをたくさんもらいました。おかげさまで随分特ダネの情報をもらいまして、検察のおかげで私は共同通信社会部で結構でかい面をできるようになった。言ってみれば、検察に育ててもらった記者なんです。

そのころ、私は検察の正義というのを全く疑っておりませんでした。政界の金権腐敗を正すために検事さんたちが日夜一生懸命頑張ってる。おれたちもそれを報道して、それから独自に取材をして、それで政治腐敗というのをなくさなきゃいけないという風な共通の使命感を持って取材しておりましたので、ある意味では精神的には特捜部の検事や事務官とほとんど同じような形で、例えば取材である情報をつかんだら、検察庁の検事さんに提供して、それから検事さんから見返りに情報をもらって特ダネを書かせてもらったりとか、正直なところそういうような、まあ言ってみれば記者として倫理を踏み外すようなことをやっていました。でもそのころは検察の正義というのを全然疑ってませんでしたので、全然後ろめたい思いというのはなかったんですね。

ただ、私が検察にだんだん疑問持ち始めましたきっかけというのは、私は1995年の夏に共同通信をやめたんですけども、その後、田中森一さんという大阪の弁護士さん、今刑務所に入っておられますけど元特捜検事のエースですね。それで特捜検事を途中でやめられて、大阪で開業をされて、大阪の暴力団の幹部とか許永中さんとかいわゆる闇の世界の人たちとのつき合いを深めていって。特捜部の検事が、特捜部をやめて弁護士になってから180度変わって、今まで自分たちが追求してきた人間を弁護するようなことを、当時の私から見ればそういうちょっと妙なことをやっている弁護士がいるというので、田中森一さんに会いにその北浜の事務所まで行ったんです。そのときに、私は何でそんなことをするんですかと率直に聞いたんですが、そのときの森一さんの答えが今でも印象に残っておりますが、要するに、「おまえ検察だけが正義だという、そんなめちゃくちゃな論理があるのか」というふうに言われまして。そのとき初めてはっと自分の中にある先入観念というんですか、検察が正義でそれに反する人たちはみんな悪だ、という論理の中に自分がはまり込んでいたなというように、少し気づかされました。

それからしばらくしまして、これも割と有名な方なんですが、東京に安田好弘という弁護士がおります。その人は、日本の死刑廃止運動のリーダー的存在で刑事弁護の専門家ですね。それで、和歌山カレー事件の彼女の、いま再審を請求したり、死刑事件でいろいろ難しい事件、オウム真理教の麻原彰晃さんの主任弁護人になったりとか、いつもありとあらゆる難しい事件を手がけてる弁護士さんなんです。この人は私の大学時代の二、三年先輩に当たりまして、よく大学時代から知ってたんです。この人は、99年だったと思うんですけども、突然警視庁の捜査二課に強制執行妨害容疑で、簡単に言うと顧問先の不動産会社に資産を隠すよう指示したという容疑で逮捕されたんです。僕はその逮捕されたときはびっくりしたんですけれども、私の知ってる安田弁護士というのは、先輩を褒めるのはちょっと気が引けるんですが、本当に人格的にも弁護士としての技術としても最高の人だったんですね。そういうすばらしい弁護士を強制執行妨害なんていう、とってつけたような犯罪でぱくるのはけしからんというふうに思いました。

だけど、検察庁や警視庁がそれなりに判断して逮捕したんだから、安田さんはそういう疑われるようなことをやってるんじゃないだろうかと、私はその当時に最初は思っていました。ところが、その安田さんが逮捕されてから、結局10カ月も拘留されるんですね。無罪を主張して検察側の主張を認めないものですから、何度請求しても裁判所が保釈を許可しないんです。それがずうっと続いて10カ月も拘留されたんですね。これはいくら何でもおかしいじゃないか。強制執行妨害というのは、最高刑でも懲役2年の刑なんですね。その懲役2年の最高刑しかない、言ってみれば軽い犯罪で弁護士を10カ月も拘留するというのは、これが少しおかしいなという風に思いまして、じゃちょっとその安田さんの事件そのもの調べてみようと思いました。

それで調べて、だんだんいろんな証拠書類とか裁判を傍聴したりとか、そうこうするうちに私は愕然とするんですね。これは主として検察庁が調べてましたから、検察庁の捜査というのはこんなにずさんなものなのかというふうにびっくりさせられたんです。中身というのは簡単に言うとこういうことなんですね。要するに、不動産会社の口座を当局が調べると2億円の金が口座からどこかに消えてるんです。それで、2億円の金が消えてるので、これはてっきりその会社の経営者が、安田の指示でどこかに隠したんだろうというのが、警察、検察側の見立てだったんですね。実は、その2億円というのは安田さんがずうっと帳簿を調べ、獄中で帳簿を点検し直して発見したんですけど、実はその経営者ではなくて、女性のベテランの経理係の女性が、もうこの会社は危ないから早目に退職金を確保しておかなきゃいけないというので、ほかの従業員と何人かで、まあいってみれば共謀して、その2億円を自分たちで勝手に引き出して、退職金がわりに分け合ったんですね。それが安田さんの裁判の中でだんだんいろんな証拠から明らかになってくる。

私びっくりしましたのは、どこをびっくりしたかと言うと、安田を逮捕する前、実は警察、検察はそのことを知ってたんです。捜査の途中でそれがわかったんです。というのは、その経理係の女性が自分で告白しましたから。だけど、その経理の女性の告白はなしにして蓋をしちゃって、結局、安田を逮捕するために強制執行妨害という容疑をかぶせて、それで安田をぱくったんです。つまり、経理係の女性がやってる横領とか、そういう業務上横領なんて、確かもっと最高刑10年ぐらいの重い犯罪行為なんですが、それは蓋をかぶせて、安田をぱくるためにそういう犯罪をでっち上げるという、非常にひどいことをやっている。結論からいうと安田さんの裁判は、東京地裁の一審では摘発から5年後に無罪が下りました。完全無罪でした。それはもう裁判長がそういう事実を認定して、警察や検察のやり方はアンフェアだと、非常に手厳しく批判して無罪を宣告しました。

それから、二、三年後に東京高裁で第二審の判決がありました。それは、裁判所が一審の判決をある程度ひっくり返して、検察側よりに事実を認定して、一応有罪になったんです。でもそれは罰金刑でした。罰金が確か30万だと思います。という有罪判決でした。これは事実上は、要するに検察の顔を立てながら、安田のほうにも一応助け舟を出す。何が助け舟になるかというと、罰金刑ですと弁護士の資格はく奪されないんです。ですから、安田は例えば最高裁で確定しても弁護士資格を失わずに済むという、言ってみれば妥協判決ですね。そういう妥協判決が出て、今最高裁で争ってるところです。

ちょっとその話が長くなりましたが、私はその事件をずっと取材する過程で、検察庁や警察、特に検察庁の正体というのに気づかされまして、ついでにほかのいろんな事件を調べてみたんですね、最近やってる特捜事件。そうすると、出てくるわ出てくるわ、ひどい捜査をいつもやり続けているということがようやくわかりまして、ちょうどそのころから、例えば2002年の鈴木宗男事件とか、2006年のライブドア事件、一々ご説明しているときりがないんですが、簡単に言うと、今特捜事件といわれているものはどういうふうになってつくられているかというと、要するに従来その暴行の枠内にあった行為ですね。例えば、小沢さんの西松建設事件というのがありましたね。これは大久保隆規さんという公設秘書が2,100万円の献金を受け取ったという、偽装献金を受け取ったということで逮捕されましたけれども、それは実は今まで摘発されたことのないケースなんですね。なぜかというと、これは一応、西松建設の関連の政治団体の名前で2,100万円の献金を受け取りましたという。収支報告書は出てるわけです。ですから、裏の献金ではなくて、もう表になった献金なんですね。検察側はその政治団体は実態は西松建設だ。だから、この政治団体はダミーであるという形で犯罪として立件しようと今してるんですけれども、それまで従来のケースを見ますと、大体政治資金規正法違反で政治家、もしくはその周辺を立件するというには、1億円以上、しかもそれが収支報告書に書かれてないヤミ献金であるというのが相場だったんですね。それを、いきなりまず額の上でがくんと下げました。2,100万円です。それから、そういう裏の献金のような悪質なようなものでないとやらなかったのを、表の献金でもやるというハードルを下げるんですね。がくんとハードルを下げて、捜査対象を立件していくというやり方をほとんどいつも同じように、最近やるようになりました。

ライブドア事件というのも実際にはそうです。ライブドア事件というのは、粉飾決算と言われてますけど、普通粉飾決算というのは企業がもうかってないのにもうかったふりをして、要するに赤字を黒字だと偽って株主をだましているという、そういう意味での粉飾決算なんですが、ライブドアの粉飾決算というのは違うんです。ライブドアの粉飾決算というのは、よく見るとわかるんですが、要するにもうかった金を売上として計上するか、それとも資本計上するかという、会計処理上の技術的な問題の見解の相違にすぎないんですね。それを警察は粉飾決算だという形でとらえて、ライブドアの堀江貴文さんたちを逮捕して、結局東京証券市場をパンクさせてまで、大変な損害を与えてまでやったんです。これも、言ってみれば従来では考えられないような、ハードルをがくんと下げて人を逮捕していくという方法をとりました。

実をいうと、今回の陸山会事件もそうなんですけども、それは後でもう少し詳しくお話しようと思うんですが、今の検察がやってることの一番大きな特徴というのは、つい昨日まで合法の枠内にあった行為を、法律の解釈を変えることによって違法だと決めつけてその人を逮捕する。そういうことをマスコミがきちんと指摘しないで、マスコミも検察の言うとおりに報じることによって、一般の人々までそういうことを信じ込まされるという現象になってるわけです。

今回の陸山会の事件で、小沢さんの起訴相当という審査会の議決が出ましたけれども、それはもう典型的にそういう検察の書いた筋書きにマスコミが乗せられ、そのマスコミの報道で一般の審査会の委員の人たちがそれを信じ込んで小沢は悪いことしたんだと。だから、小沢を起訴すべきだという結論を出したんですけれども、これは捜査の中身をある程度知ってる人間にとってみれば、非常に驚くべきことというか、あり得ないことなんですね。検察が証拠が足りなくて不起訴にしたやつを、一般の方々が起訴するという気持ちはわからないではないんですが、これは法律の精神というのも全く理解してないというふうに私自身も思いました。

でも無理もないところがあるんです。どこが無理がないかというと、鳩山さんの献金問題、あれは不起訴相当という結論がでましたね。小沢さんの件については起訴相当という全く正反対の結論が出たんですが、それはなぜそういうふうなことになるかというと、鳩山さんの献金の事件は、検察がもともと鳩山さんを不起訴にする前提で捜査をしてますから、検察が出してくる供述調書とか証拠は、みんな鳩山さんの関与を否定する調書になっているんです。ですから、そういう証拠を審査会の人たちがその証拠をもとに判断すると、当然不起訴相当という結論が出てくる。ところが、小沢さんのほうはそれとは逆に、小沢さんを起訴しようと思って捜査をやってますから、小沢さんの関与をできるだけ強調した調書というのが審査会に出されるわけです。ですから、審査会の方々はそれを見て、それで小沢さんの関与は立証できるじゃないかというふうな判断をされたんだと思うんですけども、実を言いますと陸山会の事件というのは、本当のところは皆さんもご存じだと思うんですが、水谷建設というところ、三重県のゼネコンなんですが、ここは要するに石川さんを通じて5,000万円ヤミ献金をした。石川さんはそれを受け取って陸山会の口座に入れて世田谷区深沢の土地の購入代金にした。それがほぼ4億円だというんですが、その4億円の土地購入代金に水谷建設のヤミ献金が混じっている。

水谷建設は、その時期に胆沢(いざわ)ダムというダムの建設工事を下請けで受注している。だから、これはダム工事受注の見返りとしてのヤミ献金なんだと。実質的な賄賂なんだというのが、検察の見立てだったんです。だから、土地の購入事件問題というのは、例えば饅頭でいうと皮にすぎないんですね。本当の中身のあんこというのは、水谷建設のヤミ献金なんです。検察はそれを立証したかったんです。水谷建設はそのヤミ献金5,000万円を受け取ったことを石川さんが認めれば、そのヤミ献金受領、つまり実質的な賄賂でヤミ献金を受領したというので、政治資金規正法違反で小沢さんも起訴できると踏んだんですね。実際に、石川さんは形式的な政治資金規正法違反でつかまって、20日間の間にその水谷建設のヤミ献金ばかりをずうっと追求されていくんです。

ところが、石川さんは全然身に覚えのないことだから、ずうっと否認を続けるわけです。結局、石川さんの供述はとれなかったんです。それで、水谷建設のヤミ献金が小沢さんサイドに渡ったという確証がとれなかったんです。検察のもくろみはそこで泡と消えてしまうわけですね。水谷建設のヤミ献金が立証できない以上、小沢さんを共犯として逮捕もしくは起訴することはできないという判断をしてるんです。そこのところが検察審査会の委員の方たちにはなかなかよく見えてこない。そういうことが、今回の起訴相当の議決の原因になったんだろうと思います。

私、ちょっと今いろいろ現在進行形の事件について述べましたけれども、じゃ何で東京地検の特捜部、あるいは大阪地検の特捜部はそんなひどい捜査をやるようになってしまったのかということを、検察の歴史を振り返りながら少しご説明申し上げたいと思います。実は、検察庁の生い立ちから言いますと明治維新から始まるんですね。明治維新直後に、司法省というのが今で言えば法務省ですけれども、司法省というのが明治政府の中にできるんです。実は、そのころは明治政府の人間たちに三権分立とか司法権の独立とかいう概念、理念というのがはっきり理解できてなくて、とりあえずヨーロッパの制度にならって司法省というのを一応設けたんですけれども、この司法省の特徴は土佐藩、それから肥前佐賀藩ですね。つまり、薩長土肥と言いますけれども、薩長のいわゆる主流の派閥の薩長の人たちは大蔵省とか内務省とか、そういう一流官庁を占拠するんです。司法省というのは、そのころ全く位置づけもはっきりしない、大事な役所だと思われてませんので、そういう土佐藩とか肥前藩とか、まあ言ってみれば明治の非主流派の出身の武士たちが集まった、そういう省でした。初代の司法卿というのが、皆さんご存じだと思いますが、江藤新平というんです。これは佐賀藩出身です。後で佐賀の乱で殺されますけれども、この人が初代の司法卿になりまして、言ってみればそういう非主流派の官僚たちの根城になったんですね。

明治時代は大体そういう流れなんですけども、明治21年に岡山の津山藩出身の平沼騏一郎という、後に刑事総長になって首相までなりますけども、この人が東京帝大を出て司法省へ入るんです。この人自身も本当はほかの省に行きたかったんだけれども、司法省の奨学金みたいなのを受けてた関係で仕方なく司法省へ入ったんですね。この人の回顧録を読むと、司法省は当時三流の官庁で、役に立つやつはほかのところに省に行き、役に立たないやつばかりが司法省に行って、裁判官、検事になったというふうに書いております。それぐらい、言ってみれば司法省というのは三流官庁だったんです。

ところが、この三流官庁はこの平沼騏一郎さんたちの世代が、ある程度幹部になる明治40年代初頭なんですが、そのころに一躍一流官庁の仲間入りをするんです。その一番大きなきっかけになったのが何かというと、明治42年に日糖疑獄というのを平沼さんやその部下たちが初めて摘発するんです。それまで政界の汚職事件というのを検察が摘発した例はないんですけれども、いきなり日糖疑獄、これは大日本製糖という砂糖をつくる会社が、自分たちに都合のいい法案を国会で通してもらうために、政界にお金をばらまいたという事件なんですが、この事件で一挙に国会議員を20人も逮捕するんです。

それまで、司法省の官僚というのはさんざん馬鹿にされてたんですけれども、日糖疑獄を契機に、平沼さんの表現でいうと「世にはばかられるようになった」。つまり、ほかの官庁とか政界から、まあ言ってみればかなり煙たがられるようになった。司法省の威信が上がったというふうに平沼さんは回顧録に書いています。まず、最初に日糖事件というのをやることによって、検察は、司法省は、一躍一流官庁になった。その翌年に大逆事件というのが起きます。それも検察が主導して摘発した事件なんですが、簡単にいうと幸徳秋水という当時の無政府主義者、社会主義者ら24人が死刑の判決を受けます。そのうち12人は天皇の恩赦で減刑になって無期懲役になりますけれども、幸徳秋水ら12人の死刑が執行される。これは全国の社会主義や無政府主義者が一斉に取り調べを受けたりしてますので、当時の世の中にとっては大変な事件だったんですね。

それで、検察はその大逆事件の中身というのは、天皇にブリキ缶の爆弾を投げつけて暗殺しようという、その計画段階で摘発されたんですが、天皇に危害が加えられるのを未然に防いだと、それで社会主義者を一網打尽にしたという功績で、またまたこれで検察の地位が、ステータスが上がるんです。明治42年の日糖疑獄と明治43年の大逆事件、この2つによって検察は明治末期に、まあ言ってみれば今のような高い地位を、ステータスを得るようになったんです。

それで、大正から昭和にかけて検察がやったことは、そのパターンの繰り返しです。共産党を一斉摘発した315事件というのが昭和の初期にありました。それから、その前にジーメンス事件という、これは海軍の汚職がありました。いろんな政界や軍の汚職をやる。そのことによって、他の省庁に対してにらみを利かせる。それから一方で、今で言えば公安事件、思想事件というのは思想取り締まりの中心になって事件を摘発することによって国家の治安を守る、その2つの役割をアピールすることによって、検察というのは日本の統治機構の中の中心的な役割を占めるようになってくるんです。これは、逆にいうとこの2つの役割をなくしたら検察の意味はなくなるということなんですね。

それは後でもう少しお話ししますが、そういう戦前の検察の動きが一番特徴的に出たのは、昭和9年に帝人事件というのがありました。この帝人事件というのは、帝国人絹という当時非常に成長優良な企業の株が、融資の担保として日本銀行の金庫に眠ってた。それを有力な企業たちが話し合って政界や大蔵省や日銀に働きかけて、その株を安値で引き取った。その安値で引き取る過程で、その政界や大蔵省とかそういうところに賄賂をばらまいたという見立ての事件で、検察庁が事件を摘発してどんどん逮捕していきまして、当時の齋藤實内閣というのが倒れてしまうんですね。ところが、この事件は3年後に東京地裁で事実無根のでっち上げだという判決を受けまして、水の中に浮かんだ月の影をすくうようなものだというような、全くの架空の犯罪であると断定されて無罪になるんですが、時既にもう齋藤内閣は倒れて政治状況は移っておりますので、結局この帝人事件というのは、日本の政治という方向性をさらに大きく変えたんですね。

齋藤實内閣というのは、当時リベラルな言動だった西園寺公望さんの指示でできた内閣です。平沼騏一郎さんは当時枢密院の副議長をやっておりました。検事総長を経て枢密院の副議長をやったんですが、議長になりたくて仕方がない。だけど西園寺さんがそれを阻止している。平沼内閣はなかなか実現せずに、齋藤内閣が3年ぐらい続いていた事態だったんですが、その帝人事件の摘発によって齋藤内閣が倒れ、その次に岡田内閣になるんですが、その次ぐらいにもう1つ内閣ができて、そのあと結局平沼内閣が昭和14年に実現するんです。これは、結局まだ本当のところはわかりませんけれども、平沼さんが自分が首相に就くために、部下たちに帝人事件の摘発をやらせたのではないかという疑いを持たれてます。実際、そういうふうに非常に捜査が乱暴で、しかもかなり意図的に行われた形跡があります。

その中で、主任検事の黒田さんという方がおられまして、その主任検事の黒田さんは被疑者に対してこういうようなことを述べています。「おれたちが天下を革正しなくては、いつまで経っても世の中はよくならない。腐っておらぬのは大学教授とおれたちだけだ。大蔵省も腐っている、官吏はもう頼りにならん。おれは早く検事総長になって理想を行いたい」。そういうふうな意識で、言葉を取り調べ中に述べてるんですね。つまり、平沼さんの野望と同じものが背景にある。

それから、もう一つ現場の検事たちのある種の、例えば二・二六事件のような青年将校のような、おれたちが世の中を変えてやるんだという、ある種正義感なんですけれども、非常に独りよがりのそういう正義感に燃えるというパターンは、今とそっくりなんですね。検察庁が小沢さんの捜査を1年ぐらいずっと続けましたけども、現場の検事たちの気持ちというのは、小沢は悪だ、小沢は日本の政治のために決してよくない存在だ。小沢を取り除いて、日本の政治をきれいにするんだというのが検察庁の検事さんたちのまあいってみれば、正直な本音なんですね。ですから、そのために政治資金規正法違反とかいろんな機会に引っ張り出してきて、小沢を失脚させるということが捜査の目標になるんですけれども、そういう今の彼らの意識と帝人事件のときの主任検事や検事さんたちの意識というのはほとんど同じなんです。

つまり戦前と戦後の検察の違いというのはほとんどないです。それは、そういう意識の面でもないし、そういう政治的な行動を検察がするという意味においても、今とほとんど変わらないんですね。実は変わるはずだった時期という、チャンスというのは一度だけあったんです。それは、皆さんご存じのように昭和20年8月15日の敗戦です。敗戦によってGHQが乗り込んできました。GHQが乗り込んできて日本の民主化のためにいろんな政治改革を進めます。例えば陸海空軍が解体されました。それから、内務省が解体されました。内務省解体によって警察も分割されました。どういうふうにかというと、地方警察と国家警察という形に分かれまして、非常に地方分権化されたんです。これは後で再統合されますが、そういう形で内務省系の警察、それから軍隊というのは徹底的な変革を受ける。GHQからやらされるんですけれども、検察庁はほとんど無傷に残ります。

無傷で残ったのはどういう形で残ったかというと、戦前は司法省というのがありまして、その司法省の下に裁判所と、その裁判所の附属した形で検事局というのがあったんですね。ですから、司法官僚が裁判所、検察官を両方総括するという形になってたんです。これは一応裁判所に検事局というのが付置される。附属としてつけられるという形にはなっていますけれど、実態としては逆に検事さんの地位のほうが裁判官よりずっと上で、検事さんが司法官僚のトップ、司法大臣とか次官とか、その要職を全部占めることによって、実は裁判官は検事の下のランクに位置されるような形に戦前はなってたんです。検察官司法という言葉があるんですけど、検察官司法という言葉に象徴されるように、司法の世界というのは検察官が牛耳っていたんですね。

ところが、戦後のGHQの改革で変わった点というのは、裁判所と検察がまず分けられました。裁判所は裁判所で独立しました。それで、司法省にかわって法務省、いろんな経過をたどって法務省という役所ができて、法務省の下に検察庁ができるという形になりまして、裁判所と法務省と検察庁の分離というのが行われました。実際に行われたことは、簡単にいうとこれだけです。これは検察にとっても裁判所にとっても、利益にはなっても損ではありません。もともと戦前から両方ともそういう思考がありましたので、どちらの裁判所も検察庁もウエルカムです。

だけど、検察庁の権限はほとんど戦前のまま引き継がれます。検察庁の権限というのはどういうものかといいますと、現実の検察官の法的な権限というのは、今世界の検察官の中で一番強力な権限を持ってるのは日本の検察官なんです。なぜかといいますと、日本の検察官は、例えばアメリカの地方検事のように選挙で選ばれるということはありません。それから、陪審員制度はありませんから、陪審制度がありますと陪審制度が大陪審といまして、ここに陪審員が集まってきて、その事件を起訴するかどうかという権限をこの大陪審が持つんですね。ところが、その起訴権限は日本では全部検察官が握ってます。起訴権限だけではありません。起訴しない権限、起訴しない裁量をする権限というのも日本の検察官は持ってます。

ところが、ドイツの検察官は、これは僕は本で仕入れた知識なんですが、そういう起訴しない限定というのは基本的に持ちません。起訴しない権限というのは結構大きいんです。なぜ大きいかというと、要するに被疑者として調べられますね。それで、おまえ、こちらのいうとおりしゃべらないと、おまえ起訴するよと。でもおまえがちゃんとしゃべってくれれば起訴しないよというふうな取り引きをできる権限なんで、その起訴しない権限というのはものすごく大きなものなんです。法律的には、起訴便宜主義と言われてるんですけども、つまり起訴する権限、公訴権を独占して、それから起訴しない裁量権も持って、それから選挙でコントロールされることもない、それから国会で承認される必要もないんです。ただ検事総長の人事、ですから民意、つまり民間のチェックというのがどこにも利かないんです。日本の検察システムは。それで、その上に日本の検察官は警察を指揮する権限を持ってます。それは、もちろんほかの外国でもそういう例はたくさんあります。要するに、警察の捜査を指揮する権限と同時に、独自に捜査する権限も持っています。これは刑事訴訟法に、検察官が必要と認めるときは捜査をすることができるというふうに定められてるんです。その独自捜査権という戦後の刑事訴訟法の改革の中で、独自捜査権というのを検察は確保したんです。この独自捜査権を確保することというのは、非常に検察にとって大きな意味を持ちました。それは、以前に申し上げたように、日糖事件、日糖疑獄とかジーメンス事件とか、そういう独自捜査によって自分のところの役所の威信を高めて影響力を強めていくという上で最大の武器になるからです。

本当は、アメリカの占領軍はその司法制度改革のときにもう検事は法廷の外へ出るべきではない、つまり君たちは、起訴して裁判を維持することだけに専従してればいいんだよというふうに、形では司法制度を変えようとしたんですけれども、これは検察官たちの猛烈な抵抗に遭って、結局、検察官たちは自分たちの独自捜査権というのを確保しました。それがもとになって、昭和24年に東京地地検特捜部というのが発足するんです。つまり、東京地検特捜部というのはどういう存在かというと、戦前のように検察が自分たちで独自捜査をして、自分たちのステータスを高めていく道具として、その手段として、新しい戦後の司法制度の中で、東京地検特捜部という機関として発足した。ですから、東京地検特捜部は常に国家的な重大事件を摘発するよう宿命づけられてるんです。それは、検察の死活問題だからです。

もし、特捜部がそういう独自捜査をしなくなったらどういうふうな事態になるかと言いますと、捜査は警察がやる。警察がやった事件を検察が受けてそれを裁判所へ送る。つまり検察と裁判所の間の中継機関になり、警察と裁判所の間に埋もれてしまうという現象が起きでしまうんです。ですから、特捜部というのは検察の日本の戦後のシステムの中で非常に重大な意味を持っていて、彼らは常に事件を摘発するよう宿命づけられてるんですね。戦後冷戦時代が終焉するまでの大体40年ぐらいですけども、大体10年に一、二度のペースで政界で事件を摘発してます。例えば、日通事件ですとか、その前の造船疑獄とか、それから昭和51年のロッキード事件とか、このロッキードが一番大きな事件です。田中角栄元首相を逮捕しました。この事件が一番有名ですけれども、大体10年に一、二度のペース、そんなに頻繁に事件はやってません。

なぜやってないかというと、それは検察庁にとってはジレンマを抱えてるんですね。戦後の東西冷戦構造の中で、自民党の腐敗を摘発するのは彼らにとって自分たちの役所のステータスを高める上では非常に大事なことなんです。それで摘発することによって、マスコミや世論の支持を得るということは彼らにとって非常に大事なことなんですが、それはある一定程度までで、それ以上やると自民党政権そのものが崩れてしまう、そうすると何が起こるかというと、当時の状況では社会党政権になるんですね、昔だったら。今はありませんけれども。社会主義政権、つまり社会党や共産党の天下になるというおそれがありますから、そうならないようにうまい具合にコントロールしながら捜査をやるわけです。自民党政権にある程度ダメージを与えるけども、自民党体制はくつがえらないというような捜査を40年間やってくるんです。

けれども、それから冷戦終結します。冷戦終結すると何が起きるかというと、もう社会主義政権が成立するリアリティーがゼロになるんですね。つまり、政権はどの政党が担おうとも資本主義、自由主義の体制は変わらない。つまり検察庁という組織、霞が関の官僚機構は安泰だという。今まで検察にある程度の抑制を利かせてきた、そういう体制転覆の恐怖感というのはもうなくなりますから、検察はどんどん捜査をやり始めるんです。リクルート事件をきっかけに、今見ただけでも1年間にほぼ一度ぐらいのペースで政治家を摘発しています。

例えば、90年に国際航業に絡む脱税事件で稲村利幸さんが逮捕され、92年に共和リゾート汚職で阿部文男元北海道開発長官、93年に凶悪脱税で金丸元副総裁、94年がゼネコン汚職で中村喜四郎前建設相、95年山口敏夫元労相、98年中島洋次郎衆議院議員、2000年山本譲司衆議院議員、01年がKSD事件で村上正邦元労相をやったり、02年が受託収賄で鈴木宗男元官房副長官、ずうっとこういうペースで次から次へと摘発し始めるんです。それはなぜかというと、事件をやればやるほど検察庁のステータスは上がるからです。世論やマスコミの支持を受ける。そして、実際にこの20年の間にうちに、検察が事件を摘発し続けることで、例えば90年代の後半にはこういう現象が起きてきました。証券取引と監視委員会の委員長、それから金融庁の長官、それから預金保険機構の理事長、これは非常に重要なポストですけれども、大体今まで大蔵省の指定ポストのところなんですが、これが全部検察庁のOBに代わるんです。つまり、検察はそういう事件を摘発することによって、他の省庁とか政界に対する影響力を強めて、自分たちのまあ言ってみれば天下り先というか、天上がりというか、そういうポストを幾つも手にするようになるんですね。

それともう一つ非常に大事なことは、検察が事件を摘発すればするほど、これは各企業が自分たちの企業を防衛するコンプライアンスのために、検察の元高官、元幹部を顧問としてどんどん採用するようになるんです。そういうことによって、検察の定年退職後の天下り先がたくさんできていくんですね。

それから、もう1つあります。ヤメ検の弁護士さんたちが繁盛する。大体特捜部が事件をやるとヤメ検の弁護士がつくんですね。みんな勘違いですけども特捜部の事件だから、その上司だった人たちが弁護人についてくれれば、特捜の要請に対して影響力を与えて、罪を軽くしたり、あるいは無罪も取ってくれるかもしれないと、みんな勘違いするんですが、実際にそういうことほとんどありません。逆に、検察にとってヤメ検弁護士がつくというのは、とっても大事なことなんです。なぜかというと、その被疑者と取り引きができるからです。相手に変な弁護士さんが入るとそれはできませんけれども、ヤメ検の弁護士さんが入ると、元上司と部下ですからお互いに取り引きをしまして、ここまであんたたち被疑者が認めてくれれば、検察もこれぐらいで事件は勘弁してやるよというようなお話。それから、こうやって認めてくれれば早期に保釈するよというような形で取り引きをします。大体そういうパターンです。ですから、そのヤメ検弁護士さんの繁盛とか、それから検察OBの天下りポストですとか、そういう意味でも、非常に検察にとっては事件をやることはメリットが大きいんです。そういう意味で、警察を事件を摘発というのはどんどん続いてくるんです。それだけではもちろんありませんけれども。

大体、お話はもうそろそろ締めくくろうと思うんですが、簡単に申し上げますと、戦後の検察システムというのは、検察庁の利害のために、極端な言い方なんですけれども、検察庁の利害のためにあるようなものなんですね。彼らは事件を摘発することで、自分たちの勢力を拡大していくという衝動というか、そういうものを内部に持ってるんです。ですから、新聞やおおかたのマスコミが持ち上げるようなそんなきれいなものではありません。

それから、もう1つは検察がなぜひどい捜査をやるようになったかというのは、いま申し上げましたように1990年代初頭からずうっと事件を次から次へとやっていきますから、まず粗製乱造になるんですね。それで、粗製乱造を実は裁判所が許してしまうんです。本来ならば、裁判所がこの事件おかしいよといってチェックしなきゃいけないところを、裁判所と検察の癒着関係というのは、先ほど申し上げましたように戦前から…戦前は一体でしたから、その仲間意識が今も判検交流といって、判事と検事の交流という形で続いてますけれども、その一体感が今でも続いていて、簡単にいうと検事の言うことは信用するけれども、被疑者の言うことは信用しない、そういう形で裁判がずうっと行われてきます。ですから、日本を最後は99.9%近くが有罪になります。これは、奇跡でも起きない限り無罪判決はとれないという数字です。だから、日本の無罪判決っていうのは結構大きなニュースになります。ところが、これはほかの諸国に行くと無罪判決っていうのはしょっちゅうありますから、そんなに無罪が出ても大きなニュースにならないんです。日本だけですこの現象は。それはなぜかというと、簡単に言うと裁判官が検察官の言うことばかり聞くからです。

それから、そういうことによって、検察は、自分たちの事件の捜査の質の粗さというのを、常に裁判所にカバーしてもらってきました、今までずうっと。それで、カバーしてもらって事件をやりますね。そのボロが出そうになると、また次の事件をやる。そしてまたボロ出そうになると、また次の事件をやるというふうな、自転車操業みたいな形で、ずうっと事件をやってきてますから、そういう過程の中でだんだん本当に捜査の質が落ちていくんです。この20年ぐらいの間に少しずつ少しずつ質が落ちていく。

それで、先ほど申し上げたように立件のハードルをどんどん下げていきますから、確かに事件は摘発できるんですけれども、その中身はスカスカというような状態に今なってます。そのとどのつまりが大阪地裁で今やっている村木さんのあの事件です。村木さんの事件というのは大体皆さんご存じと思うんですが、こういう構造になってるんです。民主党の石井ピン議員のところへ「凛の会」という障害者福祉士団体が違法ダイレクトメールを出す資格を取るために、石井ピンという代議士さんに…ピンと言ったら失礼かな。一さんですね、ごめんなさい。いつもピンと言ってるんです。こういうことです。03年8月に、自称障害者団体「凛の会」が設立された。それで、障害者団体向け郵便割引制度を悪用して企業の違法DMを送るためにつくられた会だと。ここまではいいんですね。それで、この凛の会の倉沢邦夫元会長は、その悪用する証明書を得るために、民主党の石井一議員に議員会館で口沿えを依頼した。これが第1点ですね。

第2点が、石井議員は、厚生省の塩田さんという当時の障害保健福祉部長…村木さんが当時その障害保健福祉部の企画課長でしたから、村木さんの上司に当たる方ですね。塩田部長に石井さんが電話でその証明書発行を依頼した。それが第2点です。第3点は、塩田部長が村木課長に便宜を図るよう指示した。これが第3点です。第4点は、村木課長は、04年6月上旬、これは議員案件だから急いでくださいといって、上村さんという係長にその証明書に偽造を指示した。5点が、出来上がった偽造証明書は厚労省の企画課長席で村木課長から倉沢会長に渡された。これが第5ですね。これが検察側の冒頭陳述の骨格です。今、5つのポイント申し上げましたけれども、この5つのポイントは全部事実でないことが裁判で明らかになってきてます。

1番目の石井一さんのところに倉沢会長たちが依頼しに行った件。確かこれは04年の2月25日だったと思いますが、ちょっと確かではありません。大体そのころの日にちに、倉沢さんともう一人の凛の会の関係者の人たちが、議員会館に来ましたという筋書きを、供述をとってるんですね。ところが、その日石井さんが…これは証言で明らかにしたんですけども、「私はそのとき同僚議員とゴルフに行ってて、議員会館にはおりませんでした」というふうに言ったんです。これは実際そのゴルフ場の記録から判明してるんです。ですから、その日に石井さんに頼みに行った事実はない。それから、その日に同行したとされる凛の会の関係者も、「私は石井さんのところに行ったことなんて一度もありません。警察に供述を押しつけられただけです」というふうに、ですからまず最初に石井さんに対する依頼という事実が全部消えました。

2番目の石井さんが塩田部長に電話で証明書の発行を依頼したという件、これはこの塩田長が検察庁の調べに対して、最初はそういうふうな供述をしてたんです。なぜそういう供述をしたかというと、この塩田さんという部長は弱みを握られてました。自分が政治家とかからちょっとしたお歳暮をもらったりとか、そういうようなちょっとした弱みを握られてて、それをちらつかせながら、供述を強要されてるんですね。それだけではなくて、塩田さんには取り調べの検事がこういうふうに言ってるんですね。厚労省の電話交信記録で4分何十秒か、あなたの電話と石井さんが交信した記録は残っている。だから言い逃れしても無駄だという話で供述をどんどん押しつけてくる。その交信記録はあるのなら、もしかしたら自分はそういうことを、石井さんから依頼を電話で受けたかもしれない。それで、村木さんにもそういう指示をしたかもしれないというふうなことを、だんだん思い込むようになって、塩田さんは検察庁の供述調書にサインしてしまいました。

ところが、裁判の前に証人テストといいまして、検察側が、弁護側でも証人尋問するとき、あらかじめ打ち合わせとか面会とかするんですね。そのときに塩田さんは別の検事から、実はその交信記録なんてものは全然なかったんだということを教えられて、それでびっくりして塩田さんは裁判へ出てきて、実は自分は嘘をついてました。これは検察庁に交信記録があると言われて、自分が思い込まされて言ったことで事実ではありません。私は村木さんに指示した覚えは全くありませんという形で証言をひっくり返して、検察側の立証の土台というのが、またそこで崩れるわけですね。

それから、偽造を指示されて、にせの証明書をつくっていた上村さんという係長です。この人も、検察の供述調書では、村井課長さんから指示されてつくりましたということに一応なってるんです。ところが、裁判に出てきて上村さんが証言したのは、皆さんもご存じと思うんですが、これは全然村木さんから指示など受けてません。私が単独でやりましたという証言をしました。ですからここでも崩れてる。

大体、その上村さんが証明書の偽造をやったときに使ったフロッピーが残ってたんですね。そのフロッピーを弁護側のほうでよく調べてみると、そのフロッピーの証明書をつくった時期というのは、04年6月1日未明だったんですね。つまり5月31日の0時過ぎにつくったということはわかったんです。ところが、検察庁の冒頭陳述ではどうなってるかというと、上村さんは6月上旬に村木さんから指示されて偽造証明書をつくったということになっていますね。つまり検査庁は、そのフロッピーを調べればわかる、その製作の日付自体もよく調べないで、こういう村木さんと上村さんの共謀関係というのを立証しようとしていたんですね。

結局、ほかにいろいろありますが、要するにこの村木さんの事件というのは、検察庁というのはいかにずさんな捜査をしているかということを、白日の下にさらした事件でして、恐らく大阪の裁判担当の記者たちは、口をあんぐり開けて裁判の行方を見守っていると思います。この検察側が証拠として採用するよう求めているいろんな供述調書について、裁判所がそれを採用するかどうかの判断というのを6月までには下すと思いますが、これは裁判の行方を占う上では一番ポイントになることだと思います。仮に証拠として採用しても、判決ではどうなるかわかりませんけれども、恐らく私の見込みではこの証拠採用はできないだろうと思ってます。これを証拠採用してしまうと、一体裁判というのは何なのかということを疑われてしまうというか、裁判官が裁判の必要性というのを否定してしまう、つまり供述調書どおりに判決を出せばいいというのが、まあ実態は今までそうだったんですけれども、今回の場合は供述調書の内容と法廷での証言の内容というのはまるっきり違いますから、その中で供述調書を採用しますというふうな形になりますと、裁判の意味、何のために裁判をやったのかということが疑われるような事態になりますので、私は多分常識のある裁判官だったら、検察側の供述調書の証拠採用は認めないだろうというふうに思います。

そして、多分、恐らく村木さんは無罪を言い渡されるだろうと。9月上旬だという話ですけども、そうなると大阪地検はもうほとんど立ち直れないぐらいのダメージを受けるでしょう、きっと。受けてもらわなきゃ困ります。なぜかというと、大阪地検特捜部は、02年4月に大阪高検の三井環さんという公安部長を口封じ逮捕した。三井さんというのは検察の裏金づくりを内部告発していた人です。その人を口封じするために、とってつけたような微罪で逮捕して、三井さんは結局最高裁で有罪確定して、刑務所へ行かされて、つい最近出てこられました。でも、検察庁というところがそういうふうに自分の組織の組織的に裏金づくりを隠ぺいして、それを内部告発しようとした人間を逮捕した。しかも、その対応をしたのが大阪地検特捜部である。よく検事がそういう破廉恥な、恐ろしいことを私はできるものだと思って、ずうっとあきれてましたけれども、今回やっぱりその報いをきちんと厚労省の事件で受けてもらなきゃ困るなと思ってます。

東京地検特捜部についても同じです。小沢さんを悪だと決めつけるのはいいんですけれども、勝手にそれは決めつければいいと思いますけれども、犯罪をつくるという、事件をつくるということを平気で今の検察庁、特に東京地検特捜部はやっております。そういうことを許してしまうと何が起きるかというと、政治は検察庁のご機嫌伺いをしながらしか動かないということになってしまう。今の政治家たち、民主党は政治家ですら検察庁批判をするのを怖がってます。かなり勇気の要ることなんです。検察ににらまれたら、自分はいつ逮捕されるかわからない。さっき申し上げたように、毎年1人ぐらいのペースでほとんどやられてますから、皆さん検察の恐ろしさを十分身に染みてるんです。

ですから、例えば今可視化法案というのをずっと前から民主党は出してますけれども、可視化法案は民主党政権ができても、まだ通る気配がありません。なぜ通る気配がないかというと、これは検察庁もそうですけれども、検察庁、法務省は断固反対してる。なぜ彼らは可視化法案を反対するかというと、先ほど申し上げた村木局長のケースのように、供述を押しつけるシーンというのをビデオで撮られてしまったら、もう特捜部の事件はできないでからです。20日間、あるいは1カ月も2カ月も密室に閉じ込めて、供述を押しつけて、事件をつくるというパターンができなくなるから、可視化法案というのには断固反対してるわけですね。

だから、可視化法案が通るかどうかというのは、特捜検察システムがこのまま続くか続かないかの分かれ目になると僕は思ってます。今の民主党の議員さんたちには、やっぱり本当に恐れずに検察庁に対して立ち向かってもらわないと、我々は昭和9年の帝人事件と同じような目に遭わされる。政治というのは我々の民意、1票で政治家の当選が決まる、あるいは政権が選べるというのは、議会制民主主義の基本です。それを検察庁の横暴を許しておいたら、その議会制民主主義自体が機能しなくなります。つまり、今回の小沢さんのケースのように、自分たちが気に入らない政治家を幾らでも標的として逮捕することを許していたら、検察主導の国家、検察国家になってしまいます。事実、今はもうそうなっているといってもいいかもしれませんけれども、そういうようなことは絶対に許してはいけないというふうに私はいつも思っているので、口を酸っぱくして検察批判をやっているわけです。

私は、結論から言えば特捜部は解体すべきだと思っています。要するに、もう特捜部を必要とするような情勢ではありません。捜査は警察に任せればいいんです。検察は、自分たちの職務、警察がやってきた捜査をチェックして裁判にかけるっていう本来の職務に戻るべきです。そういうことをしないと、今の特捜部は自分たちで捜査をして、自分たちで逮捕して、自分たちで起訴できるという、要するに誰のチェックも受けないということが、今の特捜部の体たらくにつながっているので、そういうことがもう二度と起きないように特捜検察、あるいは特捜部を解体して、正常な司法の世界をつくるべきだろうなというふうに私は考えております。長いことお聞きいただきましてありがとうございました。


質疑応答

七堂弁護士 (司会)

魚住さん、どうもありがとうございます。魚住さんに大変興味深いご講演をいただきましたけれども、せっかくの機会ですので、いまの話に関しまして何かご質問のある方がいらっしゃいましたら。

フロア質問者1

検察審査会の答申のお話がありましたけども、この間の小沢さんのやつを見てて疑問に思ったのは、メッセージというか、答申自体は一般市民が起訴するかしないかの白黒は出るからそうなんでしょうけど、あれ一体だれが作文してああいう表現にしているのかなと思ったんです。当然その事務局が作文しているでしょうし、検察側でしょうし、検察側のメッセージとして一検察官がつくってるだけなのか、それともある程度本当に最高検の上のほうまで見て、このトーンで行けというゴーサインを出してるのか。

魚住氏

いやそれは一応、多分そうじゃないと思います。検察審査会は検察審査会で独立しておりますので、そこに独立した事務局の職員がおりますので、その職員が例えば法律的なことに関しては弁護士さん、あれは補助説明員っていうんですかね。弁護士さんがある程度法律的なことについては知識を与える、中立的な立場から与えるという立場になってます。それから、審査会の職員の方がとりまとめをするというふうに私は聞いています。
ですから、今回の場合少し問題なのは、たしか補助説明員という名前だったと思うんですが、そういう形で法律的なアドバイスをする人が、ヤメ検で元裁判官という、ちょっと特殊な人なんですよね。だから、その法律アドバイザーの選び方に僕は問題があったんではないかなと推測してます。それでよろしいですか。

フロア質問者1

ありがとうございました。

フロア質問者2

それとほとんど変わらないんですが、僕もお聞きしたかったんですけど、検察審査会のサポート制度ですね。弁護士さんが、麻生事務所とか何かのあれで、40周年のオープン記念に谷垣総裁があいさつしてるんです。そういうほうについても弁護士さんですよね。

魚住氏

そうでしたかね。

フロア質問者2

だから、それはやっぱりどうやって、検事サイドは全然働かないと、警察の場合はまがりなりにも法治国家で法に照らし合わせて起訴相当と決めるでしょうけど、下手をすると情実国家になってしまう、情で決めてしまうというのが、逆に怖いような気がしてるんですね。そういうサポートどころか下手をすると誘導しかねない。ほとんど素人ですから皆さんね、そうした例えばやくざの親分が、ぐっと目をあれしただけで、子分の犯罪が犯罪になったケースがあると。最高権力者が小沢さんだったらそれと同じケースだよと。これでも公訴できるよというふうにいったら、普通の人はどういう判断されるかという。

魚住氏

ですからその法律解釈が間違えてるんですね。僕もそれは新聞で読みましたけれども、あれはやくざの親分が共犯として認定されたこと自体がおかしいんですね。要するに、まず、共謀の認定というのは非常に慎重でなきゃならないというのが、真っ当な法律家だったらだれでもそう思ってるはずです。その上に、今回のその政治資金規正法違反というのは、普通の犯罪とは違うんです。会計責任者を処罰する法律なんですね。会計責任者はこうしなきゃいけないという法律なんです。ということは、会計責任者以外の人は責任を問われないんです。責任者以外の人でそれを問われるケースというのは、会計責任者ともうほとんど同じような地位とか仕事しているような、そういう人でないと政治資金規正法違反には問えないんですね。
ですから、これをそういう例えばやくざの親分の銃の不法所持の共謀関係と、その政治資金規正法違反の共謀関係というのは、レベルが違う話をごっちゃにしてますね。ですから、多分そのアドバイザーの人はそういう説明をしたんでしょうけれども、それは間違った判断だと思います。検察に非常に都合のいい判断をしているなというふうに私は思いました。

フロア質問者2

チェックしようがないんですよね。だってみんな11対0でしょう。多分5人が残るんだったら、11人のうち5人か6人、半分残りますよね。それでまたアドバイザーが変わるんですかね。あれは変わらなかったら多分同じ判決になるしかないんじゃないかなという気がしますけどね。そうすると、物すごく怖い事態が来るなという。

魚住氏

そうですね、今回の場合、どういう法律アドバイザーを選んでるかという、どういう選び方をしているかという、私は申しわけないですがよく知りません。ただし、そこに何か多分弁護士会の推薦とか、いろいろあると思うんです。そういうので決めてるんだろうなという感じはするんですけども、今回のことをきっかけに、もう少しきちんとした弁護士がそういうアドバイザーになるように、やっぱり制度をきちんと直していかなきゃいかんなというふうには思いますけど。

七堂弁護士

はい、ありがとうございました。荻野先生、いまのことに関してですか。

荻野弁護士

実は私は兵庫県弁護士会の弁護士です。もしかしたら私の顔をだれか見た人がいるかもしれません。どういうふうに選ばれるかについて、ある程度のことは知ってますので、ご説明します。審査補助員ということを検討審査会で上げられてからは、欲しい委員さんはこの人だと。それは、一応裁判所が選任すると。ただ、裁判所はどういう弁護士がこれは適任かをわかるということは無理なんですね、たくさん弁護士がいますから。ということで、事実上弁護士会に推薦依頼をする。弁護士会として適切な人だと、この人は刑事関連に関してもよくわかってるし、片寄った考え方をする人じゃなくて、きちっとした人であろうと思われる人を推薦するという形です。

フロア質問者2

1名ですか。

荻野弁護士

一応基本的に1名しかつかないです。つけるかどうかを決めるのは審査会で決めますね。あと第二段階と、2回ありますから、一遍、人相当で、第2段階に行ったときのほうが絶対行きます。初めの段階、第一段階ではつかないこともあるし、つくこともある。それは検察審査会が自分で決めます。決めることになったら、ちょっと間違ってました。検察審査会で決めることになって、それに対して推薦依頼が検察審査会から来ます。さっきちょっと僕指定弁護士とごっちゃになりました。審査補助員に関しては、検査審査会から事実上推薦依頼は弁護士会に来て、弁護士会が推薦したら大体その人が選ばれるということが、そこは法律的にそうしなきゃいけないわけじゃないけれども、そういうふうな形になっています。
少なくとも、兵庫県では2件、明石の歩道橋の事件、それからJRの事件。JRも2つありますけれども、三社長の事件とそれからもう少し日勤教育との関係の事件とありますけれども、すべてにおいて弁護士会で推薦した人が選ばれてということになりますので、現実として審査補助になってるので、その東京のケースはどうだったか僕にはわからない。ただ、弁護士会が多分推薦してるはずですけれども、その各弁護士会がどういった形で東京のほうで選んだかについては当然私にもわからないから、それは何とも言えないですけれども、ある程度見識のある弁護士を選んでるはずです。そこは何とも私はわからないんですけれども、そういうふうになっていると。
それから、あとその審査補助員に関しては、法律的な立場からあの人たちは弱いんですね。検察審査会がすべて取り仕切って決めるわけですから、要するに市民から選ばれた検察審査員の人たちが最終的に全部取り仕切ってますから、その審査補助員の人が積極的に言うことは、法律的にはそれはちょっと難しいんです。聞かれたら答える。この点についてはどうですかと検察審査補助員の人が聞かれたら、これについてはこうだと思いますよと、一般的にこういうふうに言われてますよ、法律の解釈は一般的な解釈はこうですよ、裁判例ではこうですよ、例えば事実はこういうのがありますよとか、そういうことは言ってますけど、そうなってるはずですから、法のとおりに運用されてるんだったら、審査補助員の弁護士ができることには限界があります。審査補助員の弁護士がこれはおかしい、こんなことをしたら法律的におかしいよと思っても、まず聞かれなきゃ意見を言えないし、聞かれたら意見を言うかもしれませんけれども、その意見を強制することはできません。
あと、中でどういうことがされたかは、完全なブラックです。検察審査補助員の人もそれは外には見えないですから、それを見てる人はどこにもいない。公開は全然されないから、後から出てきた例えば結論として、要旨みたいなものが公開されてる部分だけがあるわけですよ。というのが一応現状です。

フロア質問者3

2回目の検察審査会のときは、補助員は基本的には同じ人ですか。

荻野弁護士

それを決めるのは。

フロア質問者3

検察審査会ですね。だから、検察審査会……。

荻野弁護士

兵庫県で行われたケースに関しては、全部そうです。

フロア質問者3

それで、11名の審査会のメンバーのうちの5名ぐらいでは残るわけですね。大半ぐらいはね。判決かなんかで。

荻野弁護士

ちょっと僕はそういうのは正確じゃないですが、期間が来たら交代してますから。

フロア質問者3

交代するときは、全部交代しないんですね。

荻野弁護士

全部一遍には交代しないです。その半分ぐらい交代するはずです。

自由人権協会本部代表理事

11人全員一致というのは、4とかフンとかそういう数字は出ないはずだというのと、ほとんどメディアは11人全員一致で小沢を起訴すべきだと言われてる。それはライブドアのあれみたいに、何対何というのが報道されるように、仕組みとしてなってるんです。

荻野弁護士

ちょっと正確にはいまわかってないです。調べれば多分でも法律に書いてあるんです。

自由人権協会本部代表理事

11人全員にというのは、発表されるんだったらそのとおりだと僕は思います。

フロア質問者3

発表したらだめなんです。

荻野弁護士

ただ、起訴事実、第2段階の起訴相当の議決、起訴事実は11分の8以上でないといけないから、大抵8人は絶対賛成していることはたしかなんですね。

フロア質問者3

2回目のときは、被疑者というか、同席される弁護士同席で、それもできなかったんですかね、あくまで補助員だけですね。

自由人権協会本部代表理事

告発される側の弁護士は、2回目はつけてなかった。

荻野弁護士

それはよくわからないんですけども、多分兵庫県で問題になったケースはそもそも弁護人の人は私は弁護人ですといってこなかった。ただ、弁護士は選任してたんじゃないですか。あるいは選任しても、正式に検察審査会に対しては自分は今弁護人を選任しているとは言ってない形になったんじゃないですか。とめて、自室で相談してはるかどうかは知りません。

七堂弁護士

すみません。大変検察審査会のテーマで非常に盛り上がっているんですが、ちょっとお話は検察審査会のお話だけではなくていろいろありましたので、ほかのことに関して若干おありでしたら。

フロア質問者4

特捜部解体というのはちょっと難しいと思うんですけども、特捜部を解体にできなければ、特捜部の人事ですね、だれが決定権を握ってるのか、それが1点と、それと特捜部の人事に、今も民主党政権下の問題点がありますよね――が関与できるのかという、その2点について。

魚住氏

特捜部の人事は、直接的に言うと東京地検の検事正で、次席検事あたりが人事計画というか、決定権を持つんでしょうけど、もっと大きく言えば法務省のほうで人事を法務省と検察とをぐるっと回すような人事の決め方をしてますから、法務省のほうの幹部たち、これも全部みんな検事ですけども、この人たちが自主的には決めているんじゃないかなというふうに思いますね。それから、2番目は何でしたっけ。

フロア質問者4

民主党政権下の問題点か、その人事に対して影響力を持てるのかどうか。

魚住氏

今まで自民党の例えば田中角栄さんとか、さんざんその人事に手を突っ込もうとしていましたけれども、基本的にはできませんでした。自民党政権下でも、全部跳ね返されてます、ほとんど。ちょっとした例外ケースはないではないんですが、法務、検察の人事に手を突っ込むというような恐ろしいことはどの政治家もできませんでした。ですから、民主党も今のところやれてないと思います。でも、それを最終的にやれるかどうか、今後の例えば政権が安定して本当の力を持つようになったら、もしかしたらやれるようになるかもしれませんね。今まで、自民党の例えばべったりであって、反小沢だった人たちは、例えば小沢さんがこのまま生き残って、本当に権力者が権力を握れば、小沢さんに次ぐ法務官僚、検察官僚というのは結構出てくると思うんですね。そういう中で、法務検察の中で流動化現象が起こる可能性はありますから、まだこれからできる可能性は残っているというふうに思います。

フロア質問者5

ちょっと教えてほしいんですけど、直接は関係ないと思うんですけど、きのう神戸新聞の新聞に載って「宇都宮健児日弁連の会長に聞く」となっている中の記事でびっくりする記事が載ってたんですけど、答えの中で宇都宮健児さんが「『弁護士過疎』という言葉があるが、全国の地、家裁支部の館内で弁護士のいない地域はない。一方、裁判官がいない支部は、地裁と家裁支部は48カ所。検察官のいない支部は112カ所もあると。この現状を地域住民に訴えたい」となっているんですけど、検察官はそんなにいない、物すごく人数が少ないんですか。

魚住氏

検察官というというのは、今何人でしたっけ。2,000人ぐらいだと思いますね、たしか。

フロア質問者5

ちょっと粗悪な捜査につながるんじゃないかと。

魚住氏

人数が少ないですからですか。

フロア質問者5

裁判官のいない地域ところが112カ所。裁判官がいない地域、ただし弁護士がいない地域はない。弁護士は少ない少ないとよく昔から言いますけども、検察官や裁判官がいない地裁、家裁、そんなのはびっくりしました。生徒さんが、そういう地域になってしまったんです。びっくりしましたね。そんなに少なければ、検察官がそんなに少なければ、それは地道な捜査もできないんでしょう。

魚住氏

確かに忙しすぎるということはあるのかもしませんけどね。

フロア質問者5

どうしてそんなことになったのかなと思って。人数が少ないですね。だから、この現状を地域住民に訴えたいとお書きになってるの違いますか。

七堂弁護士

確かに、本庁から支部へ来て裁判をやっているという状況ではあると思います。ある程度人数が偏在してるような状態はあるのかなというのが、私たちも感じるところがあります。
ほかに何か講演に関して。

フロア質問者6

きょうはお話ありがとうございました。魚住がおっしゃった東京の小沢さん事件と大阪の村木さんの事件といったところなんですけれども、小沢さんの場合は大久保さんがあのときはたしか議員の代表でしたよね。政権が変わるかもしれないと、そのようになるかもしれないようなことを、この事件で、今回与党の幹事長ですので、以前佐藤榮作さんが死刑のことで免れてたことがあったかもしれませんけど、そういう立場の人を取り調べるということは、先生がおっしゃったように、当然僕は証拠あるから、公判は維持できるんだろうなというぐらいに思ってたんですけども、それでも起訴すらできなかったというのは、たしかその先生がおっしゃるように検察の能力が低下しているということがあるかなと思うんですけども、どうも私はそれだけでば納得できないというか、もっとそれ以上に民主党を我慢できないというか、民主党を許せないというような、そういう意志というか、そういうことが後ろにあるのかどうかなというような気がしまして、その検察庁のステータスを上げてやろうとか、捜査能力は低下しているという部分は、もっとこういった民主党自体が許せないというふうな何かあるのかどうかということをちょっと伺いたいんですけど。

魚住氏

それは僕は何とも断定的なことは言えないですが、多分あるんだと思います。民主党、要するに民主党の抱えてるスローガンは「脱官僚」ですから。霞ヶ関が自主的に裏で政治を主導してきたという、そういう政治のあり方を変えよう、政治家が政治を行い、官僚は手足となって動くという姿勢もつくろうとしてますから、これは言ってみれば霞ヶ関にとっては大変ゆゆしき事態があるわけですね。その霞ヶ関の中軸になっているのが検察庁なんですね。だから、そういう民主党の脱官僚思考に対する検察庁、あるいはオール霞が関の危機感というか、拒否感というのは、そういうものが捜査の裏側に僕はあるんだろうなという推測はしてます。
どこでそう思うかというと、西松建設の献金事件のときに、そういう2,100万円の表献金で現場の検事が、大久保逮捕に近いときに、普通だったら止めるはずなんです。こんな犯罪で、おまえ野党の第1党の公設秘書を逮捕できると思ってるのかと、上がストップをかけるのが常識的な判断だと思うんですが、それがかかりませんでしたね、今回は。そこのところで、僕は民主党、特に小沢さんに対する拒否感というか、小沢を潰そうという意識、いまの検察の中に結構そういう意識を持っている人が多いと思います。
それは、単に脱官僚であるだけではなくて、小沢さんという人は皆さんご存じのように、田中角栄さん、金丸信さんと、2人に仕えてきた人ですね。その人らに育てられた。田中さんや金丸さんは検察によってぼろぼろにされた人間です。検察がどういうあくどい手口でつぶしにかかってくるかというのはよく知っている人ですから、検察に対する目つきが物すごく悪いんですね、小沢さんはもともと。その小沢さんが首相になると、さっきおっしゃられたように人事に手を突っ込まれる恐れというのがすごくあるんです。検察庁の人事に手を突っ込む力があるのは多分小沢さんぐらいです。そういう政治欲とか反目の含みのある人はね。小沢さんがやりかねない。検察にとっては、人事に手を突っ込まれるというのは一番嫌なんですね。そこのところで、やっぱり小沢つぶしという政治的な意図というのは、今回の捜査の背景には、恐らくあると思います。そうとしか思いようのない異常な捜査ですね。

フロア質問者6

もう一つ、何か夕刊フジか日刊現在だったか、どっちか忘れたんですよね。今の検察の特捜の無能力ぶりは、もともと特捜は、審査会出身者がずっとやってきた。ところが、最近は何か東大出身者がなってる。東大出身者は大体無能力な実務ですね。これが原因であると書いてある。この辺はどう思われますか。

魚住氏

それはちょっと極端な議論じゃないかと思います。

七堂弁護士

ちょっとそろそろ時間なんですが、簡単なことですか。すぐ終わりますか。

フロア質問者7

報道姿勢について伺いたいんですけども、新聞、テレビが小沢問題について非常に、私はちょっと事実を積み重ねずに、もうこっちから検察からすくい取って書いてると、これは彼らは意識的にやってるのか、それとも職業として無意識にああいう書き方になったのかということを考慮して。

魚住氏

両方ですね。意識的にやってる、例えば産経新聞なんか、上手に意識的にやってるんです。それから、読売新聞なんかも多分そうでしょう。だけど、本当に怖いのは無意識的にやってることですね。僕が先ほど自分の記者経験を申し上げましたけれども、新聞にとって情報源ほどありがたいものはないんです。それで日本で一番重要な情報源が何かというと検察庁なんです。検察庁から出てくる情報1つで内閣がすっ飛んだりしますから。
つまり、検察庁というのは、新聞テレビにとってものすごく重要な情報源ですから、その情報源からニュースをもらえるかどうかというのは、記者たちにとっても死活問題なんですね。記者たちは、その情報を取ろうと思って必死になります。必死になるうちに、無意識のうちに検察と同化するんです。考え方が一緒になってしまうんです。それでああいうふうな記事が出るんです。今皆さんたちが新聞テレビ中でごらんになっているような、ちょっとほかの人たちから見るとどう見ても異常な記事が出ますね。そういう原因は、私はやっぱり、無意識的な同化現象だというに思うんです。見えなくなっちゃうんですよ。ネタをとるのに一生懸命になってる、毎日狂奔してると、木を見て森が見えないというか、そういう状態にみんな陥ってしまうんですね。私、自分がやってきましたからよくわかりますけど。

七堂弁護士

ありがとうございました。そうしますと、時間がまいりましたので、まだお聞きになりたいことがあるかもしれませんが、本日はこれで終了させていただきます。また、大変狭くて、また暑くてちょっと不手際がございましたけれども、どうぞお許しください。
それで、アンケート用紙がお手元にある方はぜひアンケート用紙をお願いいたします。
それと、自由人権協会大阪・兵庫支部にもうよろしければご入会のほうをいただきたいと思います。あと、外国人参政権に関する冊子、本部が出しましたものを割引で販売しておりますので、ご関心ある方はお声かけください。
本日はどうもありがとうございました。