イーハトーブ2日間トライアル参戦記
 これはかつての「TRIAL NEKO通信」に掲載された1986年の記念すべき初めてのイーハトーブ二日間トライアルへの参戦記を、再掲載したものです。(写真はもうちょっとお待ちを)

 ついに長年の夢がかなって偉大なる草イベント、イーハトーブトライアルにトラネコ連が出場!! 楽しんでいるかい? が合言葉のこのイベントでトラネコ3人組は夏の終わりの休日を充分に楽しんだぜっ!

 イーハトーブトライアルのスタート前に我ら3人組が、これだけは守ろうと交わした言葉は、「せめてゴールはビリにならないようにしよう。」であった。トラネコ連がトライアルイベントに出るとナゼかいつも最後のゴールになってしまう。そこで前記の言葉と相成ったわけだが、最初からこの調子では先行きに不安を感じてしまうなあ〜。
 ところで、トラネコとしてイーハトーブ2日間トライアルに出場しようと思ったのは、別に今年が最初というわけではない。何年も前から出たい出たいと思っていたのだが、メンバーとマシン、ヒマの折り合いがつかなかったのである。今年は清(せい)さんに「イーハトーブに出るんだ。」とちょろっと言ったところ「魅力あるなあ、悩んでいます。」という返事が返ってきたので「これは脈が有るかな?」と思いつつ、2・3日後に聞いてみたところ「出ます。」ということで見事出場!ということになったわけである。3人目のメンバーは8302(注:トライアルネコの会員番号)高木道雄(通称ミチ)で「俺も行きたい。」で決定となった。

 さてさてご存知のとおりイーハトーブトライアルは名前通りイーハトーブの地、つまり岩手県は北上山地を舞台として行われるのであるが、スタート地点である七時雨山荘は東京から600km以上も北に行ったところにある。この距離ではさすがに自走する気もあんまり起こらないので、トランスポーターにトライアラーを積んで行く事にすぐなった。しかし、これがまた問題であった。何しろ各々の出発地が300kmも離れているのだから‥‥‥。まぁなんやかんやあった後、結局清さんが星の家キャンターで我家まで来てくれ、そこから先は我々が運転していくことになった。
 我々は金・土曜日に走るA組に出場することになっていたので、木曜日の夜までに七時雨山荘に行けばいいわけであるが、当日は意外にも早く到着した清さんの前で、高木ブラザースはアタフタしてしまったのである。そんなこんなでクソ暑い東京を出発したのはAM11:00頃であった。でも、とにかく我々はこうやってイーハトーブへと旅立ったのである。心は早くも600km先のイーハトーブへ!!

 高速道路は長くダルい道のりであった。いいかげんウンザリした。イーハトーブは遠いと実感した。それでもなんとか夕食時間ギリギリに七時雨山荘にすべりこんだ。競技開始前から遅くなってしまった。明日からのことを暗示しているようで一抹の不安が頭のスミをかすめたが、早くもイーハトーブの雰囲気に酔ってそんな事はすぐに忘れてしまった。

 さて、いよいよ競技開始の日、つまりイーハトーブ2日間トライアル第1日目の朝がやってきた。朝食を食べてスタートと行きたいところだが、各々のマシンにゼッケンNo.を取りつけるという仕事がまだ残っている。アクリル板に昨夜のうちにカッティングシートの切り抜き文字をはりつけておいた、ゼッケンを針金で車体に結びつける。あんまり良いでき映えではないが、まぁ良いことにしよう。と、そんなこんなでコーヒーでも飲んで一服つけているうちに、いよいよ我々のスタート時刻となった。
 ディスクをクラッチレバーでたたく、おなじみのイーハトーブチャイムでスタート。七時雨山荘前の草原を横切り道路に出る。この時点では競技がどうのこうのよりもコースマーカーを見落とさないだろうかという心配の方が大きい。そんなことを考えている時に限って、コースマーカーがなかなか出現しないもので、どこまで言っても曲がれとかまっすぐいけとかいう指示がない。心配になってきて、どっかでテキトーに曲ったろかしらと思っていると、ようやくコースマーカーがありました。やっぱりコースマーカーを全面的に信用することにしよう。小さいマーカーの割には見やすかったしね。
 そんなこんなでしばらく走って第1セクションに到着。U字溝やら土の山やらを組み合わせた人工セクションでどうということはなさそうである。ただ中学校が目の前にあってギャラリーがたくさんいるので、そちらの方がプレッシャーを感じてしまう。でも、僕自身はなんなくクリーン。幸先の良いスタートと言えよう! そう言えば5点になっている人もいたような気がする。誰だったかな?
 第1セクションを終え、国道4号を渡ると、コースはいよいよ北上山地の中へと入って行く。途中から砂利道になり、そこを60km/h位のスピードで走っていくと前方を蛇が横切っている! あっと思った時はもう遅く、すでにひいてしまった後であった。蛇君、苦しがっていたような様子であったが、今は無事を祈るばかりであります。その後タタリもないところをみると大丈夫だったのではないかな? とか言っているうちに第2セクションに到着。万沢氏と成田氏がここらの景色を見てイーハトーブトライアルを思いたったと言う岩洞発電所下にある。この辺には第2〜第8セクションがあり、その構成もロックありヒルクライムありと様々だ。普段は姫神トライアルパークというパークになっているらしい。確かに景色の良い場所で、彼方に岩手山が見えている。イーハトーブだなあ、と感じ入ってしまう。
 セクションの点数自体はあまりよく覚えていないが、僕はまあまあと言ったところ。でもそんな点数なんかよりも、今自分がイーハトーブトライアルに出場し、イーハトーブを走っているというこのシチュエーションがたまらなく良いですなあ。
 この期はちょっとした峠を越え、岩洞湖へと降りるのであるが、ここがまたなかなかのコースでしたねえ。まぁよくこんな道見つけたもんだと言うような感じのやぶの中の道を走っていると、いつの間にか沢になってしまっているんだよね、これが。コースの途中にもセクションみたいに難しいところがあって、思わず下見に行った私であった。でもやはり下見をすればクリアはできるもんだ。
 岩洞湖のまわりの道も例年はヌタヌタドロドロで始末に負えないそうだけど、今年は乾いていて非常に楽であった。そうこうするうちにポンと舗装道路に出る。ここで水分とガソリンの補給をする。小休止と行きたいところだが、あたりを見回すとなんとバックマーカーの成田さんがいるではないか! バックマーカーに抜かされたら失格なのだから、これはヤバイ。アセって出発しようとしていたら逆に「まだ抜かさないよ]と言われてしまった。
 岩洞湖まで来ると、北上山地の広大な大地の上にのったような形になり、いよいよイーハトーブまっただ中というわけである。それにしても北上山地というのは広いところだ。北アルプスのような峨々たる山々がそびえ、いかにも険しいというのとは違う何か奥が深い、山奥だよという感じがする。
 岩洞湖わきの舗装路をしばらく走り林道に入る。舗装路も良いがやはりダートをぶっ飛ばすのは面白い。ただし今年のイーハトーブは雨が少なかったせいもあって、どこもかしこもホコリだらけだ。先頭をいつも走っていた僕は良いとして後を走っていた方々はさぞや辛かったろうなあとつくづく思う。止まってから清さんとかミチとかの顔を見るとホコリで真っ白なんですね、これが。ウワッ!と思いつつも、絶対に先頭は明け渡すまいとカタク心に誓った僕なのでした。
 さて、到着しましたセクションが富士見高原。この場合の富士とは岩手山のことを指すんでしょうね。でも岩手山が見えた記憶はないな。ここもまた毎年使われる場所で土のオフキャンバーターンみたいなものがあったような気がする。まぁここぞまさに北上山地のまっただ中ですな。なにしろ360°北上山地だもんね。
 少し走って上外川のセクション。上外川、ちゃんと読めます? かみそでがわと読むんですよ。ここはその昔、中をくりぬいた丸太を橋のかわりに使っていたのでウッデンパイプとも呼ばれているのだ。今ではもうないけどもね。ここには昼飯前最後の3セクションがある。前半2つは連続セクションで川の中を走る。大きいロックを越えたりする数少ないロックセクションのひとつだ。残りの一つは大きい丸太を越えるセクションでどうということはなく楽勝でクリーンをいただいた。気分を良くしてコース区間を走るが、まぁここの林道の長かったこと。本気でガソリンが心配になってしまった。葛巻の町ですぐに給油してランチコントロールの平庭峠へと向かったけど、時計の針はもう2時を過ぎている。ところが平庭峠に着いてみると我々はそんなに遅い方ではなかった。どうも全体的に進行が遅れているようだ。着いたのはまあまあ早かった我々だが、注文したジンギスカン定食が忘れ去られていて出発は結局遅くなってしまった。
 きれいな舗装路を上がっていくと広々とした高原台地となる。ここは袖山というところで、なかなか気持ちの良い場所だと思った。セクションは斜面に設けられた上りのもので、どうということなく1点で抜けたが、上りで土をほじくりにほじくりまくって万沢さんにヒンシュクをかっている人もいた。
 ここからは再び林道となる。比較的スピードの出し易い林道が多いので60〜80km/h位で走っていくのだが、まぁトライアルライダーの皆さんの林道走行の速いこと速いこと。まぁマシンの差もあるのだろうけれど、こっちが80km/hjくらいでエンジンに悲鳴をあげさせている横をファンティックとかのオニイサンがいとも簡単に抜けていくんですよね。そんでまたそういう方が前に行くとホコリのひどいこと! やはり絶対に先頭は明け渡せんと再び心に誓った私であったのだ。
 そうこうしているうちに林道も終わり、安家元村に着く。3年程前にツーリングで来た時は丁度台風の影響で大雨が降り安家川の幅も今回の10倍程になっていたが、今日は平静そのものだ。セクションは川岸に設けられていて、ダダーッと下って左にターン、ほとんど助走なしで斜面をかけ上り途中の岩を越えるというものだ。まぁ見た感じではクリーンできそうだ。どこでもそうなんですけどね、本当は。現実にはうまくいかないだけの話で。大体このセクションはオバハンが3人ほど何かしゃべりながら見ているんだよね、みんなのトライを。さすがイーハトーブトライアル10年の歴史イコールてきやのやきそばプロの味。まぁ、とにかうギャラリーがいるということでクリーンするつもりでトライする。が、岩でふられて3点。ハデなアクションもなかったしクリーンもなかったしでギャラリーオバハンの冷たい視線を浴びつつ次へ向かう。
 次のセクションは普代駅前の2セクションなのだが、普代に行くまでの道がまたわけのわからない道で、ここ数年は人も通っていないのではないかと思えてしまうようなヤブである。オマケに日も大分暮れてきた。空を見上げると木星が光ったりしている。まだ5セクションを残しているというのに。
 普代駅前の2セクションはコンクリートのかたまりなどを利用した上り下りタイトターンのセクションだ。2つとも楽勝でクリーンだね、と思っていたのだが、2つ目のセクションではムズカシイポイントの前ですでに足が出ているというしょーもなさ。そんな事をなげいているヒマもなく、最後の3つのセクションへ向かう。
 最後の3セクションは山合の道路から一段下ったところにあり、ただでさえも暗いのに、夕暮れのせいでもうまっ暗、というほどではなかったけど、本当暗いんですよ。ちらっとセクションを上から眺めただけでは下見ができないんですね。当然トライする時もライトONでライトの見える範囲を進んでいく。でも点は適当に良かったけど。オブザーバーをやる方も大変で最後の頃は、「オーイ今そこ足出してたかなあ?」なんて聞く始末。セクションは我々がトライしたすぐ後に危険だということで閉鎖されてしまった。良かった、減点10を3つもくらわないで!
 くろさき荘にはPM7:30頃到着。タイムリミットを日没までとするイーハトーブトライアルではとっくにタイムオーバーだが、皆遅かったので特におとがめなしということでホッとする。というわけで早速フロに入り、おいしい食事を食べてやっとお休みとなったわけです。ちなみに今回の食事はいつもイーハトーブに出ている板前の人が特に腕をふるって作ってくれたものでした。
 
 さて、2日目の朝が来た。早朝から起き出してトライアラーの整備をしてやる。機能的にはどこにも問題ないみたいだ。イーハトーブのようなツーリングトライアルではマシンに問題があるというのが一番困る。まぁ、どのトライアルでも同じかな、これは。
 くろさき荘の前で全員の記念写真を撮ってからスタートとなる。昨日は走行距離が230kmほどあったが、今日は180km程度らしいので、その分気も楽だ。
 まずは昨日の最後の5セクションからだ。明るいせいもあって、もうすでにクリーン3と快調。と、出足は確かに快調だったのだけど、どんどんセクションをこなしていくと、増えてもいいはずのクリーンが増えないんですね、これが。その逆に(と言ったら悪いか・・・。)清さんとミチは点数こそ取っているものの、なんだかクリーンが多いのだよね。ウムム、オカシイ!とわめきながらトライを続けていく僕なのであった。
 コース、セクションは途中までは重複する部分があるものの葛巻から先は完全に独自の道を歩むことになる。おっとその前にイーハトーブ2日目第一のハイライト「さんだいなべ」があった。
 ここは一面牧草におおわれた山で、とても美しいところだ。8月の終わりの陽の光を受けて緑がちょっとさびしそうに輝いている。さんだいなべへは溝のような土の道を上がってくるのだが、雨が降るとツルツルになってしまって上がれなくなってしまうので、過去のイーハトーブでは中止になったりしたことが何度かあったようだが、最近はあんまり雨が降らないのでさんだいなべを楽しむことができている。
 さんだいなべを満足ゆく点数で終えた僕は、気分良く黒森へ、そして田代平へと急ぐのであった。途中、セクションのような沢のコースとか、唯一のコースミスとかを経験しながら走っていくと、やった!! ついに見えた、あの赤い屋根! 帰ってきたぞ七時雨山荘へ!! はっきり言ってこの時は感動モノでしたね。あんなに帰ってくることがうれしいとは思わなかった。やっぱり苦労してたんですね〜。
 ところがどっこい、もうひとつの最後の苦労、最終セクションが残っていたんですねえ。ここは例年小川をせき止めてドロドロの泥地獄になるところで、今年もまぁすごい水たまりのできていること! その中はドロドログチョグチョで、その先には泥でツルツルの斜面が待ち構えている。せっかくここまで比較的きれいなままで来たのに、ついにドロドロかと思いつつ泥水にひざまで漬かって下見をする。これはイケル!と考えをかためてトライ! 結果はバイクと斜面に背負い投げ、巴投げの連続ワザをくらって見事K.O.!! ちなみにこのセクション、クリーンの人はたったの二人だそうです。

 でも本当に楽しかったスポーティングホリディであった。競技後牛肉のバーベキューを楽しみながら我々3人は「本当にここに来てよかったね。」としみじみ語り合ったのでした。
 さあ、来年はみんなも出よう。辛くたって、疲れたって、あとで残るのは楽しかった思い出だけだよ。合言葉がなにしろ Are you enjoying?!


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