あれは私が中学2年の時だったのだから、1974年頃のことであるはずだ。
夏休みに私は軽井沢にある父の学校の寮に友人と共に遊びに行っていた。その寮はいわゆる林間学校などに使用するような施設で、碓氷峠(国道18号線旧道)を越えてちょっと行った先の矢ヶ崎山という山の麓にあった。鬱蒼と繁った林の中にある古びた日本家屋の寮は、その立地そのものが結構怖い感じであった。特に寮から外に出るためには100m程の林の中の道を歩き、外の道に出たところで小さな橋を渡るのだが、かつてその橋で自殺事件があり、その場面に居合わせたこともあったので、子供たちだけで夜外をうろつくなどと言うことは、とても怖くてできないのであった。
さて、ある晩東京から叔父がやってくる事になり、私の父と私と友人とで夜の9時頃に寮に最も近い場所の国道18号の道ばたまで出迎えに行くことになった。当然街灯なんぞは全くないので、懐中電灯を持って出かけたのであった。その日は大人も一緒にいるので、なんら怪奇現象も起こらず無事に国道まで到達することができた。
国道で東京方面からやってくるであろう叔父をしばらく待っていたが、そのうち私たち子供は退屈になってきてしまった。そこで、懐中電灯を顔の下から照らして「おばけぇー」などと国道を走ってくる車に対してやっていた。と言っても夜の軽井沢の国道18号、通る車はほとんどないと言っても良いくらいであったのだが。
そんなことをやっているうちに、また軽井沢方面から東京方面へ向けて一台の車がやってきた。その車は青いフェアレディZであった。他の車にやっていたのと同じように懐中電灯を顔の下から照らして「おばけぇー」とやっていたのであるが、その車のドライバーは窓から身を乗り出すようにしてこちらを見ているではないか。その車のドライバーは女性であったことが我々にもはっきりとわかった。「やばいやばい」と、慌てて懐中電灯を消灯した。するとその車はそのまま碓氷峠方面へと走り去ってしまった。私と友人は顔を見合わせて「やばかったねえ、びっくりさせてしまったかね。」などと話しあっていた。
そのうち碓氷峠方面から一台の車が走ってきた。猛スピードで我々の前を駆け抜けていったその車は、先ほどの青いフェアレディZであった。「あー、やっぱり怖くなっちゃって戻って来ちゃったみたいだなあ。悪いことをしてしまったなあ。」と私と友人は再び話しあったのであった。
‥‥‥‥
それから10年近くの年月が経って、私の兄が大学のあった仙台近郊の自分のアパートだか学生寮だかでお昼のワイドショーを見ていた時のことであった。画面に「恐怖!飛び回る武士の生首」という題名が出て恐怖体験談をやっていたそうだ。
「私は10年近く前のその日、夜の9時頃に軽井沢から東京に帰らなくてはならなくなり、車を碓氷峠方面に走らせていました。」画面には青いフェアレディzが‥‥。
「ふと道端を見ると人間の首のような物が浮かんでいるのが見えました。」「なんだろう?と目をこらしているとふとそれは消えてしまいました。」「私は恐ろしくなって車をUターンさせ、軽井沢へ一目散に戻りました。」
と、そこで霊媒師が登場して、「碓氷峠のこのあたりには落ち武者狩りに遭って、首を切り落とされた武士の怨霊が憑いていますな。」などとの解説が‥‥。画面では碓氷峠の風景をバックに、落ち武者の首が飛び回っている再現画像が‥‥。
オイオイ、当時の碓氷峠と今の国道18号線の旧碓氷峠とでは場所が違うんだけれどな。う〜ん、それにしてもこの人の体験談・シチュエーションと私の子供の頃の体験とはほぼイコールであるな。と言うことは‥‥。
皆さん、国道18号線旧碓氷峠を夜通過する時には、飛び回る武士の生首の怨霊が出るので注意した方が良いですよ。
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