夕日の少女

作:ネロ          

私がその少女にあったのは、きまって必ず夕方だった。
夕方。夕霧の出てる時。それが少女に会える条件だった。
私以外の人に少女は見えていないらしい。でも皆無意識に彼女に席を譲っていた。

少女はいつもきまって庭にある木で出来た椅子に座って俯いていた。
少女は皺のない半そでのワンピースを着ていた。
私は少女を見て、この世の者ではないことに気がついた。
肩口で切りそろえられた少女の髪は重力に従う事をせず、真っすぐ肩に向かって延びていた。
だが、怖いと思うような感情は無かった。「それもそうだ」と私は思う。
私は生まれた時から霊能力という物に恵まれていたので、慣れてしまっていた。
その少女はいつも何もせず、ただ、椅子に座って、俯いていた。


私は少女に話し掛けようとはしなかった。
少女には顔が無かった。





少女が言った日。
その日は親戚が皆我が家に集まった。
少女は人がいる時間は滅多に出てこないので、私は珍しく思った。
庭に椅子を置いて皆で騒いでいても、誰も少女の席に座ろうとしなかった。
少女はいつものように椅子に座っていた。
私はいつものように少女と机を挟んで向かい側に置いてある椅子に座った。
いつもと変わらない日常。でも、いつもと違う。

私がお茶を持ってきた。一口飲んで机に置く。
少女が少しだけ顔を上げた。
「欲しいの?」 私は彼女に問い掛けた。
彼女はまた俯いてしまった。


親戚達が帰り、闇が深くなった頃。
私は私室を抜け出し、お茶を持って庭に出た。
少女は変わらずそこに座っていた。
「ねえ。魔法かけてあげよっか?」
少女に問い掛けるとゆっくりと顔を上げた。
私は微笑むと、お茶を机に置いて少女に手を伸ばした。
驚いている少女に気がついていないふりをして、少女を抱きしめる。
「大丈夫。もう一人じゃないから。」
その言葉を聞くと少女は涙を流し、光となり、消えていった。



暗闇の中に残された私は、その中で少女の声を聞いた。
”ありがとう”という言葉を。





私はその後、少女が火事の家の中に取り残され、死亡したという事件を思い出した。
彼女はきっと、一人だけ残されて寂しかったのだろう。











ある日、私が気がつくと、ノートの中に
「おねえちゃんへ このまえはありがとう 
おれいに おねえちゃんのれいかんすこしだけつよくしてあげる」
と、少女のような筆跡で書かれていた。
「あの少女だ」と、すぐ分かった私は、「どうして半端でこまるって思ってたのわかったんだろう」
と、悩まずにいられなかった。


後日、霊感が少しだけ強くなっていたのはまた別の話

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