――ドーン…… 管制に鈍い振動が伝ってきた。 「ねぇ、何か聞こえなかった? グリフォン」 「あぁ……どうせルーニーかフィンの仕業だろ」 「そうだけど……毎度毎度こんな調子でいいの?」 「――だったら例のボタンでも押しとけ。しかもフィンの奴だけ」 「いいところだったのに……」 一人の女がガスマスクを取りながらぼやく。室内は黒煙で満たされており、彼女の顔はススまみれだった。そんな彼女を遠くで見つめながら男は、 「――いいところ……だったのか?」 と、目を細めながら彼女に質問した。 「いいじゃない。失敗は成功の母って言うでしょ? 小坂くん」 「失敗ばっかりしてる気がするのは俺だけか?」 「うっ……」 彼女の顔が引きつっている。どうやら図星らしい。 「あんま無茶すんなよな、聖。建物が壊れたら、どうせ俺の預金残高0になるんだからさ……と言っても、ここの構造ではよほどの事がない限り、ヒビはいんないか」 「結果オーライってやつかな?」 「――後で泣き事言っても知らんぞ、俺は」 空は晴れて水平線が分からないほど蒼く、雲の白が映えていた。ここ、アスカロンの基地からでは最近見れなかった風景である。こんな光景いつまで続くか分からないし、続いても意味がないと誰かが言う。 「……後でこらしめちゃる!!」 「――好きになさい……」 メデューサのぼやきをあえて否定しないグリフォン。 「平和、だな……」 「――そうネ……」 海を見つめながら、男女――ノーヴィスとアルウォン。一筋の冷や汗がある処をみると、現実逃避をし損ねたのだろう。 「――コレがなければ、もっと平和なんだよなぁ」 「コレがあるから、アスカロンなんじゃナイ……」 アルウォンの言葉に、深いため息を一つ…… 「こんな生活って、ありかぁ!?」 ノーヴィスの叫びは、幸いにも海と戦闘機の音が吸収してくれた。 1 ――0925…… 『――ザッ……首尾はどう?』 「まあまあだな。メデューサそっちは?」 計器類を眺めながら、グリフォンは素っ気なく言い放つ。 「う〜ん、ナイトファルコンに異常は認められないね。――ルーニーの勘違いじゃないの?」 『――そうかなぁ。高度を上げると何か、違和感みたいなものを覚えるんだけど……』 「いつからそうなんだ?」 フィンが多少心配しながら、問いかける。 『――そうね、ここ三日間はこんな感じかな?』 「あれ? フィンが心配するなんて珍しい……」 「とうとう年貢の納め時か?」 メデューサとノーヴィスのひやかしが、管制中に響き渡る。 「――お前ら、ー体全体どういう目で、おれを見ているんだ?」 「こんな目……」 メデューサは指で目の端を引っ張り、故意的に目をつり上げた。 「――まぁ、そうだろうと思った……ルーニー、そろそろ上がったらどうだ?」 『――うん、そのつもりだよ。じゃ、今から戻ります』 「ルーニー、お土産買って来てね!」 「ワタシ、きりたんぽでイイ」 「あ、俺は日本酒がいいな……」 「――お前ら……」 メデューサの一言で、ー斉になって言いたい放題の始末である。 それを聞き、フィンは頭を抱えながら呻いた。 ――1055…… 『ただいま〜!!』 無線が入り外を見ると、ヘルメットを小脇に抱えながら、黒い戦闘機からー人の女が出てきた。――何故か両手には、ビニール袋を下げているが…… 「――あいつも何考えてるんだ?」 ボソッと呟くフィン。本当にお土産買ってくるなんて…… 周りの者達は喜んでいるので、頭が痛くなる。 とりあえず戦闘機から降りた女は、建物(と言っても、降りた場所自体が建物の中なのだが)の中へ入って来ている。 「――お土産だよ〜。ついでに宮城名物の笹かまを、父さんからもらってきたよ」 管制の扉が開き、一人の女――さっき戦闘機に乗っていた女が現れた。 「え、オヤジさんってもしかしてあの元BI(ブルーインパルス)の?」 と、これはグリフォン。尊敬のまなざしで遠くを見つめる。 「そう。久しぶりに会って来たの」 「――あのオヤジさんか……」 顔面蒼白しながら、フィンは呟く。前に嫌な思い出があるのだろうか…… 「あ、これがきりたんぽでしょ? で、こっちが森吉山っていう日本酒……ついでに秋田小町も買ってきちゃった」 「――ナイトファルコンは買物機か……」 「物のついでじゃないの。気にしない、気にしない」 フィンのぼやきに他人事の様につっこむルーニー。周りも何だか肯いている。 「この中でまともな人間は、おれだけか!?」 「失礼な……これはこれでみんなまともなの!!」 「”これはこれで”って……違うような……」 「そこ黙って!!」 「ウギュゥ……」 管制の中は喧喧囂囂と、まとまりがつかなくなった。 まぁ、ここではいつもの話である。 ――1130…… 管制とは別にある食堂(キッチンと言ってもおかしくない)から、醤油の香りが漂う。ちょうど小腹が減っていて、それが空の胃をくすぐる。 『御飯出来たよ〜!!』 「館内放送を使うな!!」 いちいち昼食の用意が出来たためだけに、館内放送を使用するメデューサ。聞こえないと分かっていながら、その場で大声を上げるグリフォン。いいコンビである。 とりあえず皆、食堂へ召集させられた(半ば強制?)。 テーブルの上には、先程ルーニーが買ってきたきりたんぽが、鍋に入って煮込まれている。 「あれ、フィンは?」 「俺は此処にいる」 食堂の奥から、前掛けを着けたフィンが現れる。実は、メデューサに付き合わされて、彼女のアシをしていた。 「だって、誰かさんが手伝ってくれないんだもん」 と、メデューサはグリフォンを見つめて言い放つ。 「俺に飛び火が向かってきたわけ。――ま、秋田料理は俺しかわからんと思ったから、別にいいが……」 「て言うか、命令利いてくれるのフィンしかいないし……特に食事の時は」 「――命令……だったの?」 「そうよ、悪い?」 フウ……と、フィンは誰にも気付かれないようにため息を漏らす。 「コレがきりたんぽ? 初めて見る」 アルウォンが呟く。 「あれ? さっき、注文の時に頼んでいたの、アルウォンじゃなかったっけ?」 「え? あ、あれね。あれは、秋田の名物がきりたんぽだって聞いた事がアルから、興味半分で頼んだの。悪い? ノーヴィス」 「別に悪くはないけど……俺も食べるの初めてだし……」 「わたしは食べた事ある。フィンのおばさんが作ってくれたの、とても美味しかった」 「あれは確か、親父のやってる店で食べたんだっけ」 「そういや、俺も食った覚えがないな」 「……………………」 「――どした? メデューサ」 「言ってもいい?」 どことなく、顔が険しくなっていた。 「あ、あぁ、別にかまわないが」 「――じゃあ、言わせてもらうね…… さっさと席に着いて!! せっかく作ったのが冷めちゃうでしょ!!」 格言。鶴の一声。 ――1230…… ルーニーは一人、ドックへ足を運んだ。 「調子はどう?」 ルーニーが一人の、油まみれのつなぎを着た白髪混じりの男に声をかけた。 「ん? やあ、ルーニーさん。わしは元気ですよ」 「いや、別に島さんに言ったんじゃないんだけど……」 「ああ、そうですかい?――ところで、ナイトファルコンの事なんですが」 島と呼ばれた男は、深刻そうな顔でルーニーに近付いた。 「――なにかあったの?」 ルーニーもそれに習って、深刻な顔になる。 「実はですね……」 「実は?」 「何にも、異常が認められませんでした。はい」 「は?」 気のない声を上げる。島はハッハと笑いながら、顔を緩めた。 「気にする事は何もないよ。ただ、どうしてもって言うのなら、百項目はチェックいれるよ?ルーニーさんの為だったらね」 その言葉を聞き、ルーニーは笑顔で答えた。 「そこまでやらなくていいです。わたしの気のせいだと思いますから」 「お、ルーニー。こんなとこにいたのか?」 「グリフォン、どしたの?」 振り返ると、グリフォンが扉の所で立っていた。 「俺もイーグルプラスの様子見。ま、異常はないと思うが……」 「何言ってんだい、グリフォンさん」 「え? 異常あったんですか? 島さん」 グリフォンの顔が一瞬蒼ざめる。 「わしが調整してるから、異常なんて絶対ありゃしないよ」 「――ビックリさせないで下さい……」 鋭い目つきで島を睨むグリフォン。ドックの中はドッと笑い声が絶えなくなった。 ――同じく1230…… 「まったく、何処に行ったの? グリフォンは」 「さあ……」 食堂の奥で食器を洗っているメデューサとフィンの姿。 今にもメデューサの堪忍袋が切れそうである。それを刺激しない様に取り繕うフィン。何とも言いがたい状況…… 「後で何しようか……」 その言葉に、フィンはうっすらと汗を一条流していた。 ――同じく1230…… ――ガウン!!ガウン!! シューティングルームに銃声が轟く。 「照準が少し甘いかな?」 ヘッドフォンを外しながら、ノーヴィスがぼやく。それを横で聞いてたアルウォンは、 「腕がナイんじゃないの?」 「うるさい、シェーン!!」 図星を刺され、大声を出すノーヴィス。彼特有の甲高い声が、シューティングルームを響かせた。 「まったく。図星刺さレテ、怒鳴らないでよ」 「……………………」 「ま、いつもの事だカラいいけど。で、どうしたの? こんな時間に此処に来て。マサらしくない」 「いいだろ!? 別に……」 「よくナイ」 アルウォンが空かさず突っ込む。 「あ、そう。――とりあえずだな、足を引っ張らないようにしたいんだ、俺は……」 「ジカクしてるのね」 「ほっとけ!!」 ノーヴィスは言いながら、ヘッドフォンをして再び構え直した。 「熱心ネ……て言うか心配性なのよ、マサは」 その言葉は、ノーヴィスの耳には届いていない。 ――1300…… 「じゃ、クルーザーで出かけてくるから……」 「フィン。わたしも行く」 「ダメ。一人で行きたいの」 「え〜。どうして〜?」 「男は時として、一人で海に向かいたい時があるんだ」 「――古くさ〜い。て言うか変……」 「いいじゃないか。と言うわけで……あ、例のやつ、やっといて」 「ぶ〜!!」 ブーたれているルーニーを後目に、フィンは去っていった。 ――1305…… 「ルーニー。暇だったら俺とドッグファイトやらないか?」 「Okay!!」 グリフォンの言葉に、ルーニーは目を輝かせた。 ――1307…… 「あれ?グリフォンとルーニー、それにフィンは?」 管制にいるメデューサに、ノーヴィスが声をかけた。 「フィンはクルーザーでお出かけ……多分散歩でしょ。 そんで後の二人は。あれ……」 と言って、指で空をさす。 「Dogfight……デスか?」 「機動性のイーグルプラス対、ステルス性のナイトファルコンか。腕だったらルーニーのほうが上だけど……どうだろう」 「――どっちにしてもグリフォン、後でしめちゃる!!」 何故メデューサが怒っているのか、二人には分からない……多分分かりたくもないだろう。 ――1310…… ――こう戦ってみると、ルーニーは嫌な存在だな。敵として…… いつの間にか後ろをつかれているグリフォンの頭の中は、その事で一杯だった。 「くそ!! なんで俺が後手後手にまわってるんだ!!」 『――もう少し、楽しもうよ……グリフォン』 ルーニーの余裕の声が、耳に入る。 ――ほんと、嫌な存在だ…… ――パラララッ…… 「うわ!!」 後ろから模擬弾を発砲され、肝を潰すグリフォン。当たらないようにするのが、精一杯である。 「!! それなら!!」 グリフォンは空に向かって上昇転回。特有の機動力を活かした戦法で、一気にルーニーの背後に回り込んだ。 「ロックオン!!」 グリフォンはIRホーミングを発射した。 「当たれ〜!!」 ナイトファルコンを追うホーミング。しかし…… ナイトファルコンは、あと数メートルで海面に迫るくらいの超低空飛行を実行した。そして、直の上昇。 ――ドーン!! IRホーミングはこれについていけず、そのまま海面に直撃。水柱を上げた。 ――1313…… 「おいおい。あのイーグルとファルコン、宮川と聖じゃねえか」 クルーザーに乗りながら、遠巻きで確認したフィン。何処か嫌な予感がする。 「う〜む……やはり聖のほうが上か?」 とその時、イーグルプラスが丁度、ナイトファルコンの背後を取った。 「――宮川もやるじゃないの……げ、あいつIR撃ちやがった」 その言葉と同時に、ナイトファルコンがクルーザーに接近し始めてきた。 「――ま、まさか……そんな事、ないよな……」 しかし、それは事実だった。 ――ドーン!! IRホーミングはクルーザーの後方15メートルくらい離れた場所で、水柱を上げた。 無論、フィンはずぶ濡れになり、クルーザーは横転しそうになる。 フィンは空かさず無線を手にとって、叫んだ。 「バ……バカヤロー!! 恨みでもあんのか、聖!?」 ――1314…… ルーニーはグリフォンに背後を取られていた。 「ほえ〜。なかなかやるのね、グリフォン……でも、彼ってこの後大抵が……」 言葉を遮って、IRホーミングが撃ち出された。 「やっぱりね……いい攻めなんだけどな。ちょっともったいない」 そう言って、高度を急に落とした。 「やっぱドッグは楽しんでやらないとね」 ルーニーは海面スレスレまで高度を落とす。と、一隻の船を発見。 「――あ、なんか見た事のあるクルーザーだ……いたずらしちゃお」 微笑みながら呟き、ルーニーはクルーザーの後方で上昇を開始した。案の定、IRホーミングはクルーザー後方で水柱をあげた。 『バ……バカヤロー!! 恨みでもあんのか、聖!?』 いきなりの無線に、ルーニーは即答。 「あるに決まってるでしょ!? さっきわたしを置いていった罰よ!!」 ――1315…… 「痴話喧嘩、無線でしないように。こちゃと聖……」 ――それ、違うと思う…… 管制で、無線のやり取りを聞いていたメデューサのぼやきに、心の中で突っ込むノーヴィスとアルウォン。勿論、彼女が食事が出来たために館内放送を使った事は、誰も何も口出しする事ない。 ――1325…… 「やっぱりルーニーにはかなわん」 「へへ〜。父さん直伝だからね。これだけは譲れないよ」 管制に入ってきたグリフォンとルーニー。しかし、そこにはメデューサがいる。 「トモトモ〜」 メデューサは微笑みながらグリフォンを手招きする。その微笑みを見て、グリフォンは後ずさりした。 それが燗に触ったのか、 「――何で今逃げたの?」 と、問いただす。 「え……なんか怒っているし……」 「ふ〜ん……そういう事するんだ」 グリフォンに近付きながら、さらに微笑む。こうなると、誰も逃げられない。 「あ〜くそ。ずぶ濡れだ!!」 丁度フィンが管制の中に入ってきた。 「ともゆきく〜ん」 『はい?』 メデューサの声に、フィンとグリフォンの声がハモッた。 「こちゃじゃない!!」 「??」 怒鳴られて、フィンは全然把握出来ていない。もう一人のともゆき――グリフォンを見て、やっと理解した。 「――あぁ、お前が悪いぞ、宮川。食器洗いはやっといた方がよかったな」 「はあ? 頼まれてないぞ、俺は」 「頼んでないから当たり前でしょ?」 「理由にならん!!」 「じゃあ何でこちゃは頼んでないのにやってくれるの?」 「好きだからに決まってるだろ?」 「――決まってるのか?……」 ボソッと、誰にも聞かれない様フィンは呟く。一方ノーヴィスとアルウォンは、 「――こういうのが痴話喧嘩だよな」「ウン」 と、これまた誰にも聞かれないように、やり取りしていた。 ――1400…… 1時間の休憩…… この時、久方振りに静かになる。 ――ドーン…… ……静かになると思ったのに、どこかで爆発音がこだました。またいつもの事。みな、あえて何も言わない。 ――1415…… ルーニーはまた、ドックに来た。 「えっと……誰もいない、よね?」 辺りを確認しながら、ルーニーはナイトファルコンへ足を向けた。 「さ、今のうちに……」 そう言って、工具を取り出した。 ――1430…… 「マサ?」 アルウォンは、いつの間にかいなくなったノーヴィスを探していた。管制も食堂も、はたまたドックの中にもノーヴィスはいなかった。 「? 変ネ……何処にいるのかな」 アルウォンはガレージの方へ、一応足を向ける。 ――いた…… ノーヴィスは自分の愛車、ティアラのメンテを行っていた。今は丁度空気圧を点検中である。 「マサ!!」 「おぅ? なんだ、シェーンか……脅かすな」 「別に脅かしていないって」 素っ気なく言い放つアルウォン。ブロンズがかった短めの髪をスッと掻き分ける。 「休憩中ダヨ。メンテなんか後でも出来るデショ?」 「確かにそうだけど……何となく、ね」 「――ま、いいケド」 そう言って、アルウォンはノーヴィスの横に陣取った。 ――1435…… 「サヤカ……こんな処で寝ると風邪ひくぞ?」 「トモ〜……」 管制の椅子に座りながら寝ているメデューサ。そんな彼女に毛布をかけるグリフォン。 「――クシッ!!」 「だから言ったろ?」 はだけた毛布を、かけ直す。 ――1450…… 「小坂くん、いったいどうするの?」 「あぁ。チョット耳貸して……」 と、ルーニーに耳うちする。 「――本当に?」 「そ。本当にやるの」 「いいのかなぁ……ま、いっか」 フィンは不適な笑みをこぼし、ルーニーは不安そうな顔をする。 ――1500…… 「ノーヴィス。ちょいとつき会ってくれないか?」 廊下で、フィンがノーヴィスに声をかけた。 「お? 珍しいな。お前が誘うなんて」 「いいだろ、別に……」 「で、どこに行くんだ?」 「射撃場」 ――1505…… 「ア〜ルウォン。今暇?」 「別に大丈夫ダヨ、ルーニー」 「じゃあさ。今から調合室に行かない?」 「? 別にイイけど……」 「決定ね。じゃ、行きましょ」 ――1507…… 「――久しぶりにそいつを見るな……」 ノーヴィスは、フィンの手にある通称゛尺取り虫"ルガーP08を眺めた。 「たまには使わないと、こいつに悪いからな」 と、フィンはマンターゲットに狙いを定めた。 ――ガウン!! ガウン!! 「――まっすぐ飛ばないな……」 「ま、これは所詮、そんなものだ。だが、使い様だと思うぞ」 「たとえば?」 ノーヴィスは質問を投げかけた。 「そだな。こいつを投げつけるとか……」 「アホな事言うな!!」 「――冗談だよ……っと、誰か来たみたい。グリフォンかな?」 「お? めっずらしい〜。お前らが此処に一緒にいるなんて」 「ビンゴ……だな」 フィンはノーヴィスに向かって、右の親指を立てた。別に意味はあまりない。 「何かあったのか?」 「ん?いや、別に何も」 「そうか。ならいいんだけど……お前らの事だから、なんかよからぬ企みを練っているのかと思って」 言いながら、デザートイーグル44MAGを手にする。 「――俺らが二人でいると、いつもそんな事思っているのか?」 「当たり前だろ。違うのか?」 『違うわ!!』 ――1510…… 「――凄くスス臭いね……」 アルウォンは辺りを見渡すと、壁が黒く染まっていた。黒い白衣も置いてある。 「はは……気になる?」 「とっても……で、ここに連れてきて何か用?」 アルウォンは手近な箱に腰をかける。手元には小さな時計がいくつかあった。 「うん……実はさ、悩んでるのよね。最近」 ルーニーも箱に腰をかける。ちなみに゛取り扱い注意"とある。 「フィンの事で?」 「そうなの。彼ったらわたしの事……って、違う違う。そうじゃない」 「あ、違うの?」 アルウォンは少しにやけながら、ルーニーを見る。 「シェーンって、何年くらいこっちに住んでいる?」 「ソウね、もう10年近いね。それがどうしたの?」 「え……いや、それにしては日本料理がうまいじゃない」 「ソンな事ないよ。サヤカさんの方が上手ですよ」 「いやいや、あの人は別格。年期が違いすぎる」 「そうですか? わたしにはそうは思えないナ」 「どうして?」 ルーニーはアルウォンにつめ寄った。 「ダッテ。料理が初めからうまい人ナンカいたら変じゃない。それは確かに上達するスピードの違いってのは、あるかもしれないケド。でもそんなの関係ないヨ。ようは作る気持ち。飛行機を操縦する時、楽しいデショ? それと同じよ」 「そういうものなの?」 「そうヨ。わたしだってそうだったもの」 ――1530…… 「下手くそ〜。何回同じ事を繰り返してんだよ」 「うるせ。そんなの俺の勝手だろ?」 「進歩しねえなぁ。こちゃ」 「あぁ。どいつもこいつもウルサイなぁ。集中できないだろ?」 「お前が集中できるのは爆薬を作っている時か、写真を撮っている時くらいしかない」 冷淡に突っ込むグリフォン。 「失敬な……そんな事はないぞ」 「ふぅん……じゃあどんな時に集中できるんだ?」 「ゲームやる時や、爆弾を操作する時……」 「なめとんのか?」 グリフォンはデザートイーグルを、ノーヴィスはパイソンをフィンに向かって構える。 「いや、舐めるのは唇だけ……」 「テメー!!」 フィンのからかいに興奮するグリフォン。トリガーに指を入れている。ノーヴィスはと言うと、もうすでに傍観者である。 「――いったい何時になったら大人になるんだか……」 『お前に言われたくないわ!!』 ノーヴィスのぼやきを聞き逃さず、二人してハモらせた。 ――1555…… 「おなかすいた……」 管制で一人、ポツンとメデューサが机に顎を乗せながらぼやいたが、誰も聞いてくれない。 「――みんなツメタイ……」 メデューサは机の中に隠していた、PPK/Sを手に持った。 ――1600…… 「あれ? 誰もいない……」 グリフォンは管制の中に入ったが、誰もいない事に気付く。 「変だね。メデューサがいるはずなんだけど……」 「――案外、一人になって寂しい思いでもしてたとか」 「ウ〜ン、それはないような」 ノーヴィスの言葉にアルウォンが答える。 「じゃ、一人になったからHGG(ハイパーガスガン)の乱ぱ……つ?」 ルーニーは言いながら、足もとにあるBB弾と一つの写真を、目の当たりにした。 「――はて? これは一体……」 よく見ると、グリフォンの写真なのだが、顔面の処が何かで穴が開けられていた。 「――グリフォ〜ン、これ……」 「――HGGで撃ったな……」 「的確に当ててますネエ」 「恐ろしい……」 ――ガタッ…… 「ん? 何か音が聞こえなかったか?」 「確かに聞こえた」 フィンとグリフォンは辺りを見渡す。と、 「こちゃ〜!! 恐ろしいとは何よ〜!!」 机の影からメデューサが、PPK/Sを手にしながら現れた。 「い……いたのか!?」 「いちゃ悪い!?」 そう言って銃を構え…… ――ガシャン!! ガシャン!! BB弾を発砲させた。 「みんな、嫌いだ〜!!」 「ちょ、ちょっとまて〜!!」 「いや〜、待たない〜!!」 メデューサは、扉付近にいる5人に向かって乱射した。 「くそ。こうなったらこっちも応戦するしかないな」 それぞれ、支給用のHGGを手にして、メデューサに応戦した……が、30分後むなしく失敗に終わった。 ――1700…… 「――と、言うわけで。わたし達、明日は非番です」 「え〜。こちゃと聖、いないの〜?」 顔がバンソーコーだらけのフィンの言葉に、無傷のメデューサが口を開く……がそれを皆、無視する。 「どこか出かけるのか?」 「いや、特に予定はないが……」 「たまにはどこか行きたいな〜」 「聖ちゃんをどこか連れてやったらどうだ?」 ルーニーのぼやきに、グリフォンがフィンに突っ込む。 「たまには、ねぇ。確かに最近連れてっていないな」 「――最近?」 「ま、仕事が一段落ついたら、考えよう」 「それって一生つかないじゃん」 「……………………」 「……………………」 沈黙……その場の空気が凍りついた。 「後ろでうるさいぞ?聖……」 「うぇ、何が?」 「何がって……そんな事言ってると、本当に一生連れていかないぞ」 「そ、それは……ご、ごめんなさい。もう二度と言いません」 「――それ、前にも聞いた事あるぞ、聖……」 冷たい目で睨むフィン。しかし、 「そうだっけ?忘れた」 と、軽くいなす。そんなやり取りを見ていたメンバーは、 「――誰かヒーター入れたか?」 「さぁ……」 「確かにアツイね」 「そだね……」 と、皆して襟首をパタパタと扇ぐ。 「こひつら……」 フィンが皆に気付かれない様、握り拳を強く造っている。が、ルーニーは気付いたらしく、顔を綻ばして心で笑っていた。 続く
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