Ascalon 勤務時間編

Act.0 Prologue


 ――ドーン……
 管制に鈍い振動が伝ってきた。
「ねぇ、何か聞こえなかった? グリフォン」
「あぁ……どうせルーニーかフィンの仕業だろ」
「そうだけど……毎度毎度こんな調子でいいの?」
「――だったら例のボタンでも押しとけ。しかもフィンの奴だけ」

「いいところだったのに……」
 一人の女がガスマスクを取りながらぼやく。室内は黒煙で満たされており、彼女の顔はススまみれだった。そんな彼女を遠くで見つめながら男は、
「――いいところ……だったのか?」
 と、目を細めながら彼女に質問した。
「いいじゃない。失敗は成功の母って言うでしょ? 小坂くん」
「失敗ばっかりしてる気がするのは俺だけか?」
「うっ……」
 彼女の顔が引きつっている。どうやら図星らしい。
「あんま無茶すんなよな、聖。建物が壊れたら、どうせ俺の預金残高0になるんだからさ……と言っても、ここの構造ではよほどの事がない限り、ヒビはいんないか」
「結果オーライってやつかな?」
「――後で泣き事言っても知らんぞ、俺は」

 空は晴れて水平線が分からないほど蒼く、雲の白が映えていた。ここ、アスカロンの基地からでは最近見れなかった風景である。こんな光景いつまで続くか分からないし、続いても意味がないと誰かが言う。

「……後でこらしめちゃる!!」
「――好きになさい……」
 メデューサのぼやきをあえて否定しないグリフォン。

「平和、だな……」
「――そうネ……」
 海を見つめながら、男女――ノーヴィスとアルウォン。一筋の冷や汗がある処をみると、現実逃避をし損ねたのだろう。
「――コレがなければ、もっと平和なんだよなぁ」
「コレがあるから、アスカロンなんじゃナイ……」
 アルウォンの言葉に、深いため息を一つ……
「こんな生活って、ありかぁ!?」
 ノーヴィスの叫びは、幸いにも海と戦闘機の音が吸収してくれた。

Act.0.5 Sky & Sea



 ――0925……
『――ザッ……首尾はどう?』
「まあまあだな。メデューサそっちは?」
 計器類を眺めながら、グリフォンは素っ気なく言い放つ。
「う〜ん、ナイトファルコンに異常は認められないね。――ルーニーの勘違いじゃないの?」
『――そうかなぁ。高度を上げると何か、違和感みたいなものを覚えるんだけど……』
「いつからそうなんだ?」
 フィンが多少心配しながら、問いかける。
『――そうね、ここ三日間はこんな感じかな?』
「あれ? フィンが心配するなんて珍しい……」
「とうとう年貢の納め時か?」
 メデューサとノーヴィスのひやかしが、管制中に響き渡る。
「――お前ら、ー体全体どういう目で、おれを見ているんだ?」
「こんな目……」
 メデューサは指で目の端を引っ張り、故意的に目をつり上げた。
「――まぁ、そうだろうと思った……ルーニー、そろそろ上がったらどうだ?」
『――うん、そのつもりだよ。じゃ、今から戻ります』
「ルーニー、お土産買って来てね!」
「ワタシ、きりたんぽでイイ」
「あ、俺は日本酒がいいな……」
「――お前ら……」
 メデューサの一言で、ー斉になって言いたい放題の始末である。
 それを聞き、フィンは頭を抱えながら呻いた。

 ――1055……
『ただいま〜!!』
 無線が入り外を見ると、ヘルメットを小脇に抱えながら、黒い戦闘機からー人の女が出てきた。――何故か両手には、ビニール袋を下げているが……
「――あいつも何考えてるんだ?」
 ボソッと呟くフィン。本当にお土産買ってくるなんて……
 周りの者達は喜んでいるので、頭が痛くなる。
 とりあえず戦闘機から降りた女は、建物(と言っても、降りた場所自体が建物の中なのだが)の中へ入って来ている。
「――お土産だよ〜。ついでに宮城名物の笹かまを、父さんからもらってきたよ」
 管制の扉が開き、一人の女――さっき戦闘機に乗っていた女が現れた。
「え、オヤジさんってもしかしてあの元BI(ブルーインパルス)の?」
 と、これはグリフォン。尊敬のまなざしで遠くを見つめる。
「そう。久しぶりに会って来たの」
「――あのオヤジさんか……」
 顔面蒼白しながら、フィンは呟く。前に嫌な思い出があるのだろうか……
「あ、これがきりたんぽでしょ? で、こっちが森吉山っていう日本酒……ついでに秋田小町も買ってきちゃった」
「――ナイトファルコンは買物機か……」
「物のついでじゃないの。気にしない、気にしない」
 フィンのぼやきに他人事の様につっこむルーニー。周りも何だか肯いている。
「この中でまともな人間は、おれだけか!?」
「失礼な……これはこれでみんなまともなの!!」
「”これはこれで”って……違うような……」
「そこ黙って!!」
「ウギュゥ……」
 管制の中は喧喧囂囂と、まとまりがつかなくなった。
 まぁ、ここではいつもの話である。

 ――1130……
 管制とは別にある食堂(キッチンと言ってもおかしくない)から、醤油の香りが漂う。ちょうど小腹が減っていて、それが空の胃をくすぐる。
『御飯出来たよ〜!!』

「館内放送を使うな!!」
 いちいち昼食の用意が出来たためだけに、館内放送を使用するメデューサ。聞こえないと分かっていながら、その場で大声を上げるグリフォン。いいコンビである。
 とりあえず皆、食堂へ召集させられた(半ば強制?)。
 テーブルの上には、先程ルーニーが買ってきたきりたんぽが、鍋に入って煮込まれている。
「あれ、フィンは?」
「俺は此処にいる」
 食堂の奥から、前掛けを着けたフィンが現れる。実は、メデューサに付き合わされて、彼女のアシをしていた。
「だって、誰かさんが手伝ってくれないんだもん」
 と、メデューサはグリフォンを見つめて言い放つ。
「俺に飛び火が向かってきたわけ。――ま、秋田料理は俺しかわからんと思ったから、別にいいが……」
「て言うか、命令利いてくれるのフィンしかいないし……特に食事の時は」
「――命令……だったの?」
「そうよ、悪い?」
 フウ……と、フィンは誰にも気付かれないようにため息を漏らす。
「コレがきりたんぽ? 初めて見る」
 アルウォンが呟く。
「あれ? さっき、注文の時に頼んでいたの、アルウォンじゃなかったっけ?」
「え? あ、あれね。あれは、秋田の名物がきりたんぽだって聞いた事がアルから、興味半分で頼んだの。悪い? ノーヴィス」
「別に悪くはないけど……俺も食べるの初めてだし……」
「わたしは食べた事ある。フィンのおばさんが作ってくれたの、とても美味しかった」
「あれは確か、親父のやってる店で食べたんだっけ」
「そういや、俺も食った覚えがないな」
「……………………」
「――どした? メデューサ」
「言ってもいい?」
 どことなく、顔が険しくなっていた。
「あ、あぁ、別にかまわないが」
「――じゃあ、言わせてもらうね……
 さっさと席に着いて!! せっかく作ったのが冷めちゃうでしょ!!」
 格言。鶴の一声。

 ――1230……
 ルーニーは一人、ドックへ足を運んだ。
  「調子はどう?」
 ルーニーが一人の、油まみれのつなぎを着た白髪混じりの男に声をかけた。
「ん? やあ、ルーニーさん。わしは元気ですよ」
「いや、別に島さんに言ったんじゃないんだけど……」
「ああ、そうですかい?――ところで、ナイトファルコンの事なんですが」
 島と呼ばれた男は、深刻そうな顔でルーニーに近付いた。
「――なにかあったの?」
 ルーニーもそれに習って、深刻な顔になる。
「実はですね……」
「実は?」
「何にも、異常が認められませんでした。はい」
「は?」
 気のない声を上げる。島はハッハと笑いながら、顔を緩めた。
「気にする事は何もないよ。ただ、どうしてもって言うのなら、百項目はチェックいれるよ?ルーニーさんの為だったらね」
 その言葉を聞き、ルーニーは笑顔で答えた。
「そこまでやらなくていいです。わたしの気のせいだと思いますから」
「お、ルーニー。こんなとこにいたのか?」
「グリフォン、どしたの?」
 振り返ると、グリフォンが扉の所で立っていた。
「俺もイーグルプラスの様子見。ま、異常はないと思うが……」
「何言ってんだい、グリフォンさん」
「え? 異常あったんですか? 島さん」
 グリフォンの顔が一瞬蒼ざめる。
「わしが調整してるから、異常なんて絶対ありゃしないよ」
「――ビックリさせないで下さい……」
 鋭い目つきで島を睨むグリフォン。ドックの中はドッと笑い声が絶えなくなった。

 ――同じく1230……
「まったく、何処に行ったの? グリフォンは」
「さあ……」
 食堂の奥で食器を洗っているメデューサとフィンの姿。
 今にもメデューサの堪忍袋が切れそうである。それを刺激しない様に取り繕うフィン。何とも言いがたい状況……
「後で何しようか……」
 その言葉に、フィンはうっすらと汗を一条流していた。

 ――同じく1230……
 ――ガウン!!ガウン!!
 シューティングルームに銃声が轟く。
「照準が少し甘いかな?」
 ヘッドフォンを外しながら、ノーヴィスがぼやく。それを横で聞いてたアルウォンは、
「腕がナイんじゃないの?」
「うるさい、シェーン!!」
 図星を刺され、大声を出すノーヴィス。彼特有の甲高い声が、シューティングルームを響かせた。
「まったく。図星刺さレテ、怒鳴らないでよ」
「……………………」
「ま、いつもの事だカラいいけど。で、どうしたの? こんな時間に此処に来て。マサらしくない」
「いいだろ!? 別に……」
「よくナイ」
 アルウォンが空かさず突っ込む。
「あ、そう。――とりあえずだな、足を引っ張らないようにしたいんだ、俺は……」
「ジカクしてるのね」
「ほっとけ!!」
 ノーヴィスは言いながら、ヘッドフォンをして再び構え直した。
「熱心ネ……て言うか心配性なのよ、マサは」
 その言葉は、ノーヴィスの耳には届いていない。

 ――1300……
「じゃ、クルーザーで出かけてくるから……」
「フィン。わたしも行く」
「ダメ。一人で行きたいの」
「え〜。どうして〜?」
「男は時として、一人で海に向かいたい時があるんだ」
「――古くさ〜い。て言うか変……」
「いいじゃないか。と言うわけで……あ、例のやつ、やっといて」
「ぶ〜!!」
 ブーたれているルーニーを後目に、フィンは去っていった。



 ――1305……
「ルーニー。暇だったら俺とドッグファイトやらないか?」
「Okay!!」
 グリフォンの言葉に、ルーニーは目を輝かせた。

 ――1307……
「あれ?グリフォンとルーニー、それにフィンは?」
 管制にいるメデューサに、ノーヴィスが声をかけた。
「フィンはクルーザーでお出かけ……多分散歩でしょ。
 そんで後の二人は。あれ……」
 と言って、指で空をさす。
「Dogfight……デスか?」
「機動性のイーグルプラス対、ステルス性のナイトファルコンか。腕だったらルーニーのほうが上だけど……どうだろう」
「――どっちにしてもグリフォン、後でしめちゃる!!」
 何故メデューサが怒っているのか、二人には分からない……多分分かりたくもないだろう。

 ――1310……

 ――こう戦ってみると、ルーニーは嫌な存在だな。敵として……
 いつの間にか後ろをつかれているグリフォンの頭の中は、その事で一杯だった。
「くそ!! なんで俺が後手後手にまわってるんだ!!」
『――もう少し、楽しもうよ……グリフォン』
 ルーニーの余裕の声が、耳に入る。
 ――ほんと、嫌な存在だ……
 ――パラララッ……
「うわ!!」
 後ろから模擬弾を発砲され、肝を潰すグリフォン。当たらないようにするのが、精一杯である。
「!! それなら!!」
 グリフォンは空に向かって上昇転回。特有の機動力を活かした戦法で、一気にルーニーの背後に回り込んだ。
「ロックオン!!」
 グリフォンはIRホーミングを発射した。
「当たれ〜!!」
 ナイトファルコンを追うホーミング。しかし……
 ナイトファルコンは、あと数メートルで海面に迫るくらいの超低空飛行を実行した。そして、直の上昇。
 ――ドーン!!
 IRホーミングはこれについていけず、そのまま海面に直撃。水柱を上げた。

 ――1313……
「おいおい。あのイーグルとファルコン、宮川と聖じゃねえか」
 クルーザーに乗りながら、遠巻きで確認したフィン。何処か嫌な予感がする。
「う〜む……やはり聖のほうが上か?」
 とその時、イーグルプラスが丁度、ナイトファルコンの背後を取った。
「――宮川もやるじゃないの……げ、あいつIR撃ちやがった」
 その言葉と同時に、ナイトファルコンがクルーザーに接近し始めてきた。
「――ま、まさか……そんな事、ないよな……」
 しかし、それは事実だった。
 ――ドーン!!
 IRホーミングはクルーザーの後方15メートルくらい離れた場所で、水柱を上げた。
 無論、フィンはずぶ濡れになり、クルーザーは横転しそうになる。
 フィンは空かさず無線を手にとって、叫んだ。
「バ……バカヤロー!! 恨みでもあんのか、聖!?」

 ――1314……
 ルーニーはグリフォンに背後を取られていた。
「ほえ〜。なかなかやるのね、グリフォン……でも、彼ってこの後大抵が……」
 言葉を遮って、IRホーミングが撃ち出された。
「やっぱりね……いい攻めなんだけどな。ちょっともったいない」
 そう言って、高度を急に落とした。
「やっぱドッグは楽しんでやらないとね」
 ルーニーは海面スレスレまで高度を落とす。と、一隻の船を発見。
「――あ、なんか見た事のあるクルーザーだ……いたずらしちゃお」
 微笑みながら呟き、ルーニーはクルーザーの後方で上昇を開始した。案の定、IRホーミングはクルーザー後方で水柱をあげた。
『バ……バカヤロー!! 恨みでもあんのか、聖!?』
 いきなりの無線に、ルーニーは即答。
「あるに決まってるでしょ!? さっきわたしを置いていった罰よ!!」

 ――1315……
「痴話喧嘩、無線でしないように。こちゃと聖……」
 ――それ、違うと思う……
 管制で、無線のやり取りを聞いていたメデューサのぼやきに、心の中で突っ込むノーヴィスとアルウォン。勿論、彼女が食事が出来たために館内放送を使った事は、誰も何も口出しする事ない。

 ――1325……
「やっぱりルーニーにはかなわん」
「へへ〜。父さん直伝だからね。これだけは譲れないよ」
 管制に入ってきたグリフォンとルーニー。しかし、そこにはメデューサがいる。
「トモトモ〜」
 メデューサは微笑みながらグリフォンを手招きする。その微笑みを見て、グリフォンは後ずさりした。
 それが燗に触ったのか、
「――何で今逃げたの?」
 と、問いただす。
「え……なんか怒っているし……」
「ふ〜ん……そういう事するんだ」
 グリフォンに近付きながら、さらに微笑む。こうなると、誰も逃げられない。
「あ〜くそ。ずぶ濡れだ!!」
 丁度フィンが管制の中に入ってきた。
「ともゆきく〜ん」
『はい?』
 メデューサの声に、フィンとグリフォンの声がハモッた。
「こちゃじゃない!!」
「??」
 怒鳴られて、フィンは全然把握出来ていない。もう一人のともゆき――グリフォンを見て、やっと理解した。
「――あぁ、お前が悪いぞ、宮川。食器洗いはやっといた方がよかったな」 「はあ? 頼まれてないぞ、俺は」
「頼んでないから当たり前でしょ?」
「理由にならん!!」
「じゃあ何でこちゃは頼んでないのにやってくれるの?」
「好きだからに決まってるだろ?」
「――決まってるのか?……」
 ボソッと、誰にも聞かれない様フィンは呟く。一方ノーヴィスとアルウォンは、
「――こういうのが痴話喧嘩だよな」「ウン」
 と、これまた誰にも聞かれないように、やり取りしていた。

 ――1400……
 1時間の休憩……
 この時、久方振りに静かになる。
 ――ドーン……
 ……静かになると思ったのに、どこかで爆発音がこだました。またいつもの事。みな、あえて何も言わない。

 ――1415……
 ルーニーはまた、ドックに来た。
「えっと……誰もいない、よね?」
 辺りを確認しながら、ルーニーはナイトファルコンへ足を向けた。
「さ、今のうちに……」
 そう言って、工具を取り出した。

 ――1430……
「マサ?」
 アルウォンは、いつの間にかいなくなったノーヴィスを探していた。管制も食堂も、はたまたドックの中にもノーヴィスはいなかった。
「? 変ネ……何処にいるのかな」
 アルウォンはガレージの方へ、一応足を向ける。
 ――いた……
 ノーヴィスは自分の愛車、ティアラのメンテを行っていた。今は丁度空気圧を点検中である。
「マサ!!」
「おぅ? なんだ、シェーンか……脅かすな」
「別に脅かしていないって」
 素っ気なく言い放つアルウォン。ブロンズがかった短めの髪をスッと掻き分ける。
「休憩中ダヨ。メンテなんか後でも出来るデショ?」
「確かにそうだけど……何となく、ね」
「――ま、いいケド」
 そう言って、アルウォンはノーヴィスの横に陣取った。

 ――1435……
「サヤカ……こんな処で寝ると風邪ひくぞ?」
「トモ〜……」
 管制の椅子に座りながら寝ているメデューサ。そんな彼女に毛布をかけるグリフォン。
「――クシッ!!」
「だから言ったろ?」
 はだけた毛布を、かけ直す。

 ――1450……
「小坂くん、いったいどうするの?」
「あぁ。チョット耳貸して……」
 と、ルーニーに耳うちする。
「――本当に?」
「そ。本当にやるの」
「いいのかなぁ……ま、いっか」
 フィンは不適な笑みをこぼし、ルーニーは不安そうな顔をする。



 ――1500……
「ノーヴィス。ちょいとつき会ってくれないか?」
 廊下で、フィンがノーヴィスに声をかけた。
「お? 珍しいな。お前が誘うなんて」
「いいだろ、別に……」
「で、どこに行くんだ?」
「射撃場」

 ――1505……
「ア〜ルウォン。今暇?」
「別に大丈夫ダヨ、ルーニー」
「じゃあさ。今から調合室に行かない?」
「? 別にイイけど……」
「決定ね。じゃ、行きましょ」

 ――1507……
「――久しぶりにそいつを見るな……」
 ノーヴィスは、フィンの手にある通称゛尺取り虫"ルガーP08を眺めた。
「たまには使わないと、こいつに悪いからな」
 と、フィンはマンターゲットに狙いを定めた。
 ――ガウン!! ガウン!!
「――まっすぐ飛ばないな……」
「ま、これは所詮、そんなものだ。だが、使い様だと思うぞ」
「たとえば?」
 ノーヴィスは質問を投げかけた。
「そだな。こいつを投げつけるとか……」
「アホな事言うな!!」
「――冗談だよ……っと、誰か来たみたい。グリフォンかな?」
「お? めっずらしい〜。お前らが此処に一緒にいるなんて」
「ビンゴ……だな」
 フィンはノーヴィスに向かって、右の親指を立てた。別に意味はあまりない。
「何かあったのか?」
「ん?いや、別に何も」
「そうか。ならいいんだけど……お前らの事だから、なんかよからぬ企みを練っているのかと思って」
 言いながら、デザートイーグル44MAGを手にする。
「――俺らが二人でいると、いつもそんな事思っているのか?」
「当たり前だろ。違うのか?」
『違うわ!!』

 ――1510……
「――凄くスス臭いね……」
 アルウォンは辺りを見渡すと、壁が黒く染まっていた。黒い白衣も置いてある。
「はは……気になる?」
「とっても……で、ここに連れてきて何か用?」
 アルウォンは手近な箱に腰をかける。手元には小さな時計がいくつかあった。
「うん……実はさ、悩んでるのよね。最近」
 ルーニーも箱に腰をかける。ちなみに゛取り扱い注意"とある。
「フィンの事で?」
「そうなの。彼ったらわたしの事……って、違う違う。そうじゃない」
「あ、違うの?」
 アルウォンは少しにやけながら、ルーニーを見る。
「シェーンって、何年くらいこっちに住んでいる?」
「ソウね、もう10年近いね。それがどうしたの?」
「え……いや、それにしては日本料理がうまいじゃない」
「ソンな事ないよ。サヤカさんの方が上手ですよ」
「いやいや、あの人は別格。年期が違いすぎる」
「そうですか? わたしにはそうは思えないナ」
「どうして?」
 ルーニーはアルウォンにつめ寄った。
「ダッテ。料理が初めからうまい人ナンカいたら変じゃない。それは確かに上達するスピードの違いってのは、あるかもしれないケド。でもそんなの関係ないヨ。ようは作る気持ち。飛行機を操縦する時、楽しいデショ? それと同じよ」
「そういうものなの?」
「そうヨ。わたしだってそうだったもの」

 ――1530……
「下手くそ〜。何回同じ事を繰り返してんだよ」
「うるせ。そんなの俺の勝手だろ?」
「進歩しねえなぁ。こちゃ」
「あぁ。どいつもこいつもウルサイなぁ。集中できないだろ?」
「お前が集中できるのは爆薬を作っている時か、写真を撮っている時くらいしかない」
 冷淡に突っ込むグリフォン。
「失敬な……そんな事はないぞ」
「ふぅん……じゃあどんな時に集中できるんだ?」
「ゲームやる時や、爆弾を操作する時……」
「なめとんのか?」
 グリフォンはデザートイーグルを、ノーヴィスはパイソンをフィンに向かって構える。
「いや、舐めるのは唇だけ……」
「テメー!!」
 フィンのからかいに興奮するグリフォン。トリガーに指を入れている。ノーヴィスはと言うと、もうすでに傍観者である。
「――いったい何時になったら大人になるんだか……」
『お前に言われたくないわ!!』
 ノーヴィスのぼやきを聞き逃さず、二人してハモらせた。

 ――1555……
「おなかすいた……」
 管制で一人、ポツンとメデューサが机に顎を乗せながらぼやいたが、誰も聞いてくれない。
「――みんなツメタイ……」
 メデューサは机の中に隠していた、PPK/Sを手に持った。

 ――1600……
「あれ? 誰もいない……」
 グリフォンは管制の中に入ったが、誰もいない事に気付く。
「変だね。メデューサがいるはずなんだけど……」
「――案外、一人になって寂しい思いでもしてたとか」
「ウ〜ン、それはないような」
 ノーヴィスの言葉にアルウォンが答える。
「じゃ、一人になったからHGG(ハイパーガスガン)の乱ぱ……つ?」
 ルーニーは言いながら、足もとにあるBB弾と一つの写真を、目の当たりにした。
「――はて? これは一体……」
 よく見ると、グリフォンの写真なのだが、顔面の処が何かで穴が開けられていた。
「――グリフォ〜ン、これ……」
「――HGGで撃ったな……」
「的確に当ててますネエ」
「恐ろしい……」
 ――ガタッ……
「ん? 何か音が聞こえなかったか?」
「確かに聞こえた」
 フィンとグリフォンは辺りを見渡す。と、
「こちゃ〜!! 恐ろしいとは何よ〜!!」
 机の影からメデューサが、PPK/Sを手にしながら現れた。
「い……いたのか!?」
「いちゃ悪い!?」
 そう言って銃を構え……
 ――ガシャン!! ガシャン!!
 BB弾を発砲させた。
「みんな、嫌いだ〜!!」
「ちょ、ちょっとまて〜!!」
「いや〜、待たない〜!!」
 メデューサは、扉付近にいる5人に向かって乱射した。
「くそ。こうなったらこっちも応戦するしかないな」
 それぞれ、支給用のHGGを手にして、メデューサに応戦した……が、30分後むなしく失敗に終わった。

 ――1700……
「――と、言うわけで。わたし達、明日は非番です」
「え〜。こちゃと聖、いないの〜?」
 顔がバンソーコーだらけのフィンの言葉に、無傷のメデューサが口を開く……がそれを皆、無視する。
「どこか出かけるのか?」
「いや、特に予定はないが……」
    「たまにはどこか行きたいな〜」
「聖ちゃんをどこか連れてやったらどうだ?」
 ルーニーのぼやきに、グリフォンがフィンに突っ込む。
「たまには、ねぇ。確かに最近連れてっていないな」
    「――最近?」
「ま、仕事が一段落ついたら、考えよう」
    「それって一生つかないじゃん」
「……………………」
    「……………………」
 沈黙……その場の空気が凍りついた。
「後ろでうるさいぞ?聖……」
    「うぇ、何が?」
「何がって……そんな事言ってると、本当に一生連れていかないぞ」
    「そ、それは……ご、ごめんなさい。もう二度と言いません」
「――それ、前にも聞いた事あるぞ、聖……」
 冷たい目で睨むフィン。しかし、
    「そうだっけ?忘れた」
 と、軽くいなす。そんなやり取りを見ていたメンバーは、
「――誰かヒーター入れたか?」
「さぁ……」
「確かにアツイね」
「そだね……」
 と、皆して襟首をパタパタと扇ぐ。
「こひつら……」
 フィンが皆に気付かれない様、握り拳を強く造っている。が、ルーニーは気付いたらしく、顔を綻ばして心で笑っていた。
続く
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