今年、東京は記録的な猛暑で梅雨を明けた。世間では環境破壊のせいだとか何だかで騒いでいるが……
「ふわぁぁぁぁ……ねぇ、フィッフィ。今日は何する?」
「ふえぇ? まだ遊ぶのぉ!? いいかげん仕事しようよぉ」
ハスの葉の上。愛らしい顔をした妖精たちが二人、なにやら雑談をしていた。一人は桃色の髪を短くしている。背を伸ばし、栗色の長い髪をポニーテイルにしたもう一人の妖精に声を掛けた。
「えぇぇ? だって、こんないい天気なんだよぉ。遊ばないで何するのよぉ」
「――ファーファ、本気で言ってるのぉ?」
栗色の髪をした妖精は、呆れた顔で言い返した。続けて、「いい天気なのはあなたのせいでしょ?」
「なぁに、フィッフィまでそんなこと言うの?」
「言うの? じゃなくて。あなたの仕事でしょお?」
葉の上で、ポニーにした髪を揺らしながらファーファに詰め寄った。
「な、なによぉ。いいじゃないの、一年くらいサボったってぇ。それにぃ、今温暖化現象とかいうやつでぇ、人間はぁ誰もわたしがサボってるなんて分からないわよぉ」
何を開き直ったのか、ファーファはむくれ顔でそっぽを向いた。それを見たフィッフィは、
「――知らないよぉ。ウンディーネ様が怒っても……」
「そういうフィッフィだって、何でこんなところにいるのよぉ」
「わたしは風の妖精だよ? 季節に関係ないよ。あなたにはだって、梅雨という季節があるじゃないのよ」
「梅雨梅雨梅雨梅雨ってぇ〜〜〜! 日本だけじゃないのぉ!!」
「いや、そんなことはないけど……」
フィッフィの突っ込みも虚しく、ファーファは、
「そんなに梅雨が好きだったら、蕎麦のつゆでも飲んでよねぇ!!」
「――そんな、日本だけにしか通じないネタは……」
「なによぉ! いつもいつも、この時期になると、私は一生懸命頑張っているって言うのにぃ、誰も気づいてくれてないのよぉ! いいじゃないのよぉ、一年くらいはぁ!」
「――結局、フラストレイションが溜まっているだけなのねぇ……でも、それだけで梅雨に雨を降らせないのはねぇ……」
はふぅ、とため息を吐きながらフィッフィは言い放った。諦めたような声で……
「でも……ファーファだけじゃないよねぇ……確か雨の妖精って……」
ふと、思い出したかのように、フィッフィが人差し指をあごに当てながら小首を傾げた。後ろで束ねた髪は重力に逆らわずにぽわんっと揺れ、それがなんとも愛らしかった。続けて、
「ねぇファーファ。他の妖精はどうしたの?」
その問いにファーファは間髪入れず、
「他の娘たちはぁ、中国と韓国にぃ慰安旅行だってぇ。私を無視して行っちゃうんだもぉん」
と、頬を膨らせて怒っていた。
「ちょ、ちょっと待ってよファーファ。そ、それじゃあ今年の中国・韓国での豪雨ってもしかして……」
フィッフィは答えを聞きたくもなかった。が、ファーファの口からは予想通りのものが返ってきた。
「そうだよぉ。あ、九州地方のあの豪雨もぉ、芋焼酎で酔った勢いでぇやっちゃったって話しだよぉ」
「そんっっっな、のほほんと言わないでよ!」
と勢いよく立ち上がって、ファーファに接触するかしないかのところで止まった。
「自分の仕事にきちんと責任もってよね!」
「え〜……でもぉ……」
歯切れの悪い言葉が耳につく。それがやけに癪に障り、
「なに!?」と、勢いよく上から叩きつけるように声を張り上げた。その声に一瞬ファーファはびくついたが、何とか負けないで声をあげた。
「――風の妖精たちもぉ、インド洋で火の妖精たちと一緒になって<ダイポールモード現象>を起してるしぃ、チリ沖ではぁ、<ラニーニャ現象>を起こしているじゃないぃ」
「…………え゙?」
虚をつかれ、フィッフィは目を丸くした。「――うそ……でしょ?」
しかし、ファーファの首は無情にも左右に振られた。「妖精ネットワークで調べたのよぅ」
「そ、そんなぁ……」
フィッフィは肩を力なく落とした。よもや、自分の仲間がそんなことをしていたとは思いもしなかった。
「と、いうわけでぇ。わたしだけここで頑張ってもしょうがないのよぉ。
で、何して遊ぶぅ?」
その問いにフィッフィは即答した。
「北海道で竜巻つくり!」
今年の日本列島は記録的な猛暑に見舞われ、梅雨明けが例年より一週間ほど早かった。が、実際の梅雨明けはもっと早かったとして、気象庁が後ほど訂正してくるだろう。
その背景として、実は自然界の妖精たちが仕事をサボっていたということは、今のところ人間は一人も気づいていない……
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